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第3話
そのトールが、意識不明になったのは、三日後のことだった。
俺は病室で目を閉じているトールを見て、呆然としていた。
すると隣にワーク様が立った。
「どういうことなんですか!?」
「時空操作魔術の研究をしている他の魔術師が自白したよ。トールを妬んでいたから、自分側の論文で、過去に魔獣を送り込む術式は完成していたから、それを用いて幼少時のトールを殺害したって。そう遠くない内に、こちらの体は透けるように消えるはずだよ」
「えっ……?」
俺が目を見開くと、ワーク様が目を眇めた。
「放たれたのは魔狼だから、今の時代でなら一瞬で討伐できても、当時のトールには無理だ。勿論君にもね。君達が魔術師の塔に来る前の時間軸で事件は起きたみたいだから。花欧歴1810年の8月20日20時30分」
「助けられないんですか!?」
「今、こちらにあるのは、精神のみの逆行、つまり僕が僕の過去の体に入り込んで討伐することとなるけれど、それは魔術協定で禁止されている未来の改変にあたる。たとえ相手が未来を操作したとしても、それは変わらない」
「だけど――」
「魔術連盟の理事として、僕には無理だよ。最悪だな。これでもしトールが研究していて草稿まで出来ていた実体を保持した時空移動術が連盟に認められていたら、いいや、トールの体が消える前にそれが認められれば、こちらから人を送り込むこともできるけどね。ただし現状では、知見が少なすぎる。実体を伴った場合、移動した魔術師にどんな影響が出るかわからない以上、被害者が増えるだけの結果になる可能性も高い」
ワーク様はそう言うと、トールを見る。
「僕はトールに期待していたし、我が子のように思っているよ。それは君のことだって同じだ、ラピス。連盟とは僕も交渉はする。せめて精神のみの逆行だけでも認められたら、手が打てるかも知れないからね」
そのままワーク様は歩き去った。
残された俺は、呆然とした後で、ハッとしてトールの研究室まで走った。
トールの論文は、あとは実証実験のみで、理論は完成していると知っていたからだ。
俺は、どうなってもいい。トールを助けられるなら、この体がどうなろうと構わない。当時の俺に倒せないのなら、トールの理論を元に、この体で助けに行けばいい。
俺は論文を取り出して、術式を頭にたたき込む。
そして禁術といったたぐいの高度な魔術を使う際に使用する、結界がある地下へと向かい、魔法陣の上に、強く杖をついた。
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