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第4話
「――ん」
次に気がつくと、俺は日の光の下、草原に寝ていた。
体を起こすと、遠くに領主の館が見え、近くの看板にはワイゼル伯爵領と書かれていた。トールはワイゼル伯爵家の次男だと話していたから、ここはトールの実家の土地のようだ。
おずおずと起き上がった俺は、きょろきょろしながら街へと向かう。
そこに売られていた新聞の日付を見て、今が、俺とトールが十三歳の年だと理解した。十三歳の頃の俺は、まだ村で生活をしていたから、なるほどここにはいないだろうし、魔狼を倒すなんて絶対的に無理だ。
「あと半年後にことが起きるのか……」
呟いてから俺は、まずはトールの実家へと向かうことにした。
トールの実家はさすがは伯爵家といった感じであり、護衛もしっかりしていた。だが魔術師の塔で学んだ俺にはどうということもなく、記憶操作魔術の初歩で暗示をかけて、俺は新しいトールの専任の護衛という立場におさまった。
「お前が俺の新しい護衛か? ルイといったか?」
挨拶に向かうと、トールは分厚い本を見ていた。顔を上げると、うさんくさそうに俺を見る。へらりと笑って、俺は頷いた。ルイは俺の偽名である。
「そうです。宜しくお願いします!」
「必要最低限のことをしてくれれば良いし、勉強の邪魔になるからあまり話しかけないでくれ」
なんともトールらしい返答だった。
しかし十三歳のトールは愛らしい。俺は、最初に言われた言葉など無視した。トールを助けた後の自分の体がどうなるのか不明なのもあったし、人生でトールとこうして一緒にいられるのはこれが最後かもしれないという思いもあって、ひたすらにトールを構い倒した。
「ほら、トール様! お星様の形のケーキ!」
「ケーキ? 不審物の毒味をするのはお前の仕事だとして、何故ルイが料理を作るんだ?」
「食べさせたいからです!」
「何故?」
「だって今日は、お誕生日でしょう?」
俺が満面の笑みを浮かべてそう言うと、虚を突かれたように目を丸くしてから、トールが頬を染めた。かわいい。
見ているとトールは勉強三昧で、子供らしいことは何一つしていなかった。
だから俺が構うと鬱陶しそうにしながらも、ちょっとずつ喜んでくれていたらしい。
「食べましょう!」
「……ああ」
二人でケーキを食べていると、トールが言った。
「ルイ」
「はい!」
「ルイはその……好きな人とかはいないのか?」
「トール様です!」
「っ、そういうことではなくて……恋人というか」
「……そうですね」
それもまた俺から見ればトールだが、今のトールは十三歳なので、さすがにその子に欲情したりはしない。俺は苦笑した。
「トール様は大人になったら、きちんと恋人を大切にして下さいね」
「俺は……その……俺が、大人になるのを、ルイは待っていてくれないか?」
「そうできたらいいんですけどね。それよりちゃんと、遊園地に連れていってあげたり、抱くときは優しく丁寧に甘く抱いたりですね」
「抱く?」
「あーっと、ちょっとトール様には早いお話でした!」
「? どういうことだ?」
トールは純情だ。そこもまた、かわいい。
こうして、トールが襲撃される日が訪れた。この日は両親と兄妹は出払っていた。
使用人達はいるが、それでも護衛の数もいつもより手薄だ。
ガタン、と、外の扉が破壊される音がした時、俺はトールとともにいた。
「なにごとだ?」
「トール様、大丈夫です。俺がいますから」
「だが――」
「ねぇ、トール様。約束して下さい。俺のこと、忘れないって」
「なにを言ってるんだ。俺がルイを忘れるわけがないだろう」
それだけで、その言葉と約束だけで、俺には十分すぎた。
俺は杖を軽く振り、トールを眠らせる。
そしてフードをしっかりとかぶり、手袋を嵌めて、杖を握りしめた。
あとは、魔狼を倒すだけ。
その仕事は、俺には非常に易かった。
「そんなことじゃないかと思ってはいたんだよ」
そこに声が響いてきた。コツンコツンと靴の踵の音を響かせてやってきたのは、ワーク様だった。
「っ」
「安心するといい。無事に連盟の許可が下りたから、僕自身は僕の体に精神だけ逆行移動してここに来てる。目的は、君と同じだと思うけど、どうかな?」
「ワーク様……っ、その……すみません、俺、どうしても……」
俺が俯くと、俺の頭をポンポンと叩くようにワーク様が撫でた。
「本当に謝ってほしいね。言ったよね? 僕にとってはラピスも同じように大切な弟子だと。僕は危うく、二人の愛弟子を喪うところだった」
「……」
「まず良い報告からだよ。ここから見れば未来において、無事にトールは意識を取り戻した。もう三ヶ月になる。そして代わりに、君がいなくなった。トールは君の体が無事に戻ってこれるようにと、寝食も忘れて時間操作魔術を完成させたよ」
「! トールは無事なんですね!?」
「そうだね、君のおかげで。そして君の体は貴重な時間操作魔術の実体を伴う移動をした被検体でもあるから、君個人へのおとがめもなしだ。さぁ、トールのことは僕が後を処理するから、一刻も早くラピスはラピスに戻るといい。君の名前は、僕が記憶している限り、ルイではないはずだよ」
「はい!」
「トールにはルイは死んだと伝えておくからね」
俺は頷き、それから一度振り返った。最後に十三歳のトールにお別れの言葉をいいたかったようにも思ったが、未来で無事ならば、いいだろう。死人は挨拶などしないのだし。
こうして魔法陣を展開し、俺は光に包まれた。
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