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 数分してから星野が部屋に帰ってきた。疲れ切った様子からは少し回復しているように見える。 「お疲れ様。これ」 俺の存在に気付いていなかったのか、声をかけると星野の肩がビクッと跳ねる。胸元に手を当てながら振り返り、俺を見ると会釈をしてきた。 「すみません、気づかなくて。あ、お茶ありがとうございます」 「……荷物、結構持ってきたんだな」 「これから年間通して必要なものは家から全部持ってきちゃったので、かなり多くて……」 困ったような顔で笑いながら、星野は一口お茶を飲み込んだ。  星野のように、入学からすぐに荷物をそろえる生徒はこの学園には多い。稀に「冬物はあとで実家から送ってもらう」とか「夏休みに帰省した時に準備する」とか言う奴もいる。所謂家族仲が良好なタイプ。星野の出立を見るに生活に困ってはいなそうだし、顔つきも話し方も穏やかで愛されてそのまま育ってきた雰囲気を感じる。そう言う奴がこんなに身の回りのものをまとめて持ってくることに、やや違和感はあるが…… (結局は、こいつもオメガだし) 一人では生きていけない、何もできない、守られて消費されるだけの存在。俺が、嫌いなもの。 「ごちそうさまでした。あ、このスポンジ使っても大丈夫ですか?」 「……あ、あぁ。共有してる場所のものは、別に……星野が嫌でなければ」 「ありがとうございます、使わせてもらいます」 スポンジでコップを洗う動作。なんてことないその動きすらややぎこちない。初めて手伝いをした子どもみたいに、やけに丁寧で慎重だ。 「ありがとうございました」 何へのお礼か分からないくらい星野は繰り返しありがとうと言い、自室に入っていった。  星野の家事に不慣れそうな様子や白くて細いあの腕がやけに思い出に重なる。もう、忘れたいのに。鳥籠から今も抜け出せずにいるであろうあの人と、閉じ込めておくことになんの疑問を抱かないあの環境が、気持ち悪くてたまらない。 だから、俺はオメガが嫌いなんだ。

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