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第4話
女の子の両親に対して警察が任意で事情聴取を行なったところ、女の子が家を出る直前、父親が金属バットで頭を殴打したことを認めた。母親も関与を供述していることから、警察は両名を実子に対する傷害致死容疑で逮捕した。
また死亡当時、女の子には体中に多数の外傷が認められ、過去には両親からの身体的虐待により児童相談所に何度も一時保護されていた事実が確認できている。
両親から日常的に虐待を受けていた可能性があると見て、今後の捜査が進められていくだろう。
ごく普通の、けれど暗い表情をした若い男女が連行される姿を映した後、ニュースは切り替わった。
──傷害致死、か。
本当にやりきれないニュースだと思った。テレビの電源を落として、僕はひとつ溜息をつく。
こんな小さな子どもの頭を硬いもので殴って死に至らしめたのだから、傷害致死ではなく殺人であるべきじゃないかと僕は思う。
けれどたとえ殺人事件の被疑者として逮捕されたところで、最終的には傷害致死として送致されるケースがとても多いことは知っていた。
殺人も傷害致死も、人の命を奪う行為であることに変わりはない。その違いは、故意に人を殺したか否かだ。そして、殺意の有無によって罰条の重みは全く違ってくる。
けれど、人の命を奪う行為に殺意があったかどうかを立証することは、とても難しい。
他人の心の中は、誰も覗くことができないから。
ニャア、とか細い声が聞こえて足元を見ればノアが僕を見上げていた。両手で抱き上げてその真っ直ぐな眼差しに語りかける。
「うん、大丈夫。ごめんね、心配かけて」
膝の上に置いた途端丸くなったノアの毛並みをそっと撫でていると、心に掛かっていた黒い靄が少しずつ取り除かれていくような気がした。
「お前ってすごいね」
ノアが欠伸をして目を閉じる。膝の温もりが心地よくて、その優しさに安堵する。セイちゃんも僕を抱くときはこんな気持ちなんだろうか。
今夜セイちゃんは帰ってくるだろう。
僕は僕にできることをしなければいけない。
夜遅く、セイちゃんは帰ってきた。翳りのある表情に僕の胸は痛む。疲れているのは見て取れた。昨日もきっと、殆ど寝ていないのだろう。けれど、身体よりも心の方がずっと疲れているのかもしれない。
「ただいま」
「おかえりなさい」
抱きついて唇が触れるだけのキスをする。握りしめた掌が思っていたよりも温かくて少しだけ安心した。
「ノアは?」
「もう寝てるよ」
そう答えると、セイちゃんは残念そうな顔をする。ここ数日飼い猫を見ていないことを、淋しく思っているんだろう。
夕食はいらないと事前に連絡があったから用意していない。けれどきっと食べてないんだろうなと思った。
「セイちゃん、明日は休み?」
「ああ、休みをもらったよ」
「じゃあ、ちょっと付き合ってほしいんだけど。いい?」
顔を見上げながらそうねだると、セイちゃんは眩しいものを見るように目を細める。
「ノアにそう言われちゃ、駄目とは言えないよ」
「ありがとう」
繋いでいた手を解いて広い背中に回せば、セイちゃんは優しい眼差しを向けてほんの少し笑顔を見せてくれた。
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