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第22話 御姫様抱っこ
蜜梨の体を心惟から奪い取った秘果に御姫様抱っこされて、運ばれる。
廊下を歩きながら、秘果が息を吐いた。
「蜜梨ちゃんに何かあった時、ちゃんと助ける姿勢は買うけど。むやみに触らせちゃ、ダメだからね」
「うん……」
ちょっとだけ怒った感じに秘果に注意された。
そんな秘果を腕の中から眺める。
(心惟が言う通り、秘果さんは俺が記憶を取り戻さなくても、こんな風に大事にしてくれるんだよな)
それが申し訳ないような、もどかしいような。罪悪感にも似た感情が湧き上がる。
「ねぇ、秘果さん。三百年前、俺たちの姿って子供だった?」
桃源における百歳が現世の何歳くらいに相当するのか、わからないが。蜜梨の中に残っている記憶は、子供姿の秘果だ。
「そうだね。お互いまだ子供だったけど、あの頃は蜜梨ちゃんのほうが背が高かったよ」
「俺のほうが年下なのに? あれ? 年下で良いんだよね?」
蜜梨が半神族で秘果が神獣だから、同じに考えていいのかも、わからない。
「生まれたのは俺のほうが少し早かったけど、人型の体の成長は蜜梨ちゃんのほうが早かったよ。半神族は人間に近い感じで、幼少期が短くて大人の体で長く生きるんだ。神獣はその辺がもっとフラットで、子供姿が長いんだ」
如何にも桃源らしい話が聞けた。
「じゃぁ、俺が現世に落ちた頃って、秘果さんはまだ子供の姿で、俺はそこそこ成長してた?」
「……あの頃は、子供ではあったけど、そこまで幼くはなかったよ。現世風にいうならお互い、高校生くらいの形だったかな。成人よりは少年て感じ」
大変イメージしやすい例えだ。
とはいえ、蜜梨が思っていたほど、子供ではなかったようだ。
もっと幼い子供を想像していた。
(てことは、俺が夢で見ていた少年は、もっとずっと幼い頃の秘果さんなんだ。どうして泣いていたんだろう。小さい頃なら、側にいたはずなのに)
瑞希として初めて慶寿に挨拶に上がった時は、蜜梨もまだ幼稚園児くらいの幼子だったと思う。
それ以降は慶寿の屋敷で、秘果と共に暮らしていたはずだ。
質問には答えてくれたが、言い淀んだ秘果はやっぱり話したくなさそうだ。
それ以降、口を噤んでしまった。
(俺が思い出そうとして調子悪くしたせいもあるだろうけど、それだけじゃないよな)
秘果も心惟も、蜜梨に記憶を取り戻させたくなさそうに見える。
蜜梨の記憶を刺激しないように、言葉を選んで最低限しか語らない感じだ。
(だとしたら、思い出さないほうがいいのかな。大事にしてくれる秘果さんが必要ないって思うなら)
無理に思い出そうとしないで、心惟が言う通り、新しいこれからを作っていくべきなのかもしれない。
そう思うのに、蜜梨の胸の奥には、何かがこびり付いている。
(体が拒否るような記憶なんだし、見て見ぬ振り、するべきなのかな)
聞きたい言葉は、今は胸に仕舞うことにした。
「今はもう、秘果さんのほうが背が高いね。俺、全然伸びなくてさ。運動とかしてたわけじゃないからかもだけど」
「俺的には、理想の身長差だよ。立ったまま抱きしめると、蜜梨ちゃんの顔がちょうど胸にくるから、嬉しい」
抱える蜜梨に、秘果が笑顔を向ける。
その顔がとても嬉しそうで、蜜梨は余計に本音を胸に仕舞い込んだ。
ちょっと照れた心持になって、蜜梨は目を逸らした。
「しかも、力持ちだね。こんな風に抱えられると、恥ずかしいというか、照れるというか」
とはいえ、嬉しくないわけではないのだか。
秘果の顔を覗き込んで、蜜梨が嬉しそうに笑んだ。
「神獣は力が強いからね。半神族は基本、体の造りや体力が人間寄りだけど、俺たちは獣寄りだから」
「獣か……」
そういわれると、改めて秘果は竜なんだなと思う。
「秘果さんの竜になった姿、見てみたいな」
「いつでも見せてあげる。蜜梨ちゃんになら、どんな俺も全部見せるよ」
額に秘果の唇が落ちる。
御姫様抱っこでキスなんかされたら、ときめきすぎて心臓が持たない。
「でも今日は、蜜梨ちゃんに見せたい、もっと別の特別があるんだよ」
「別の特別?」
首を傾げる蜜梨に、秘果が得意げに頷いた。
「蜜梨ちゃん、きっとビックリして、すごく喜ぶと思うんだ」
うきうきした顔をして、秘果がいつもとは別の部屋に入った。
「ずっと客間を使ってもらってたけど、今日からここが蜜梨ちゃんの部屋だよ」
秘果が連れてきてくれた部屋は、客間より広い。
大きなベッドにテーブルやソファと、調度品も揃っている。
「こんなに広い部屋、俺一人で使っていいの?」
現世で住んでいたボロアパートより広い。広すぎて、スペースの使い方がわからない。
「勿論。けど、寝る時は、今まで通り一緒だよ。俺の部屋でも、いいけどね」
当然のように話す秘果の目が色っぽくてドキドキする。
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