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第12話
言われるがままソファに腰を降ろす。
男は随分手慣れた様子でドライヤーを扱い手早く髪を乾かしていく。
「お兄さん美容師してる?」
「目指したことはあるけどな、上手いか?]」
「上手いんじゃない、知らないけど…」
ちょっと嬉しそうに笑う声が聞こえてじわっと心が綻ぶ。
なんだろうこれは、世話されてるのが少し嬉しい
「それにしても傷んでるなお前の髪」
「ホテルを転々としてるからね」
「この髪の色は染めたのか?」
「いや、この髪は自然になっただけ」
「ふーん、待ってろよ」
ドライヤーは思ったより早く終わって髪の毛は綺麗に乾かされていた。
髪に気を使う余裕も無かったんだな俺
「メンテナンス入りまーす」
「えっ?」
男はニヤリと楽しそうな笑みを浮かべながら左手にボトルを持っていて、そこから透明な液体を手のひらにコインほどの大きさに取ると髪に塗りたくってきた。
「……あ…凄い良い香りする」
爽やかな香りの中にほんのりと甘さを感じる。
好きな匂いだ
「ヘアオイル、安物だけどするだけマシになるぞ」
「あ、ありがとう。
お兄さん名前は?」
「飛彩、お前は」
「木葉、木に葉っぱて書くんだ」
「ほら、終わったぞ。んっ、綺麗になったな。
さっきコンビニで飯買ってきたから一緒に食べるか」
「うん…ありがとう」
がさつな人間だと思ったら結構面倒見も良いし、怪しい素振りも見せないし今日は取り敢えず大丈夫だろう。
きっと普通の家庭で育てばこういう身の周りにも気を使えて、人の事を警戒しない性格になれたんだろうか。
彼はきっと良い人だ、少なくとも自分には害は無い。
なのに素直に喜べない自分が情けなかった。
こんな人間になりたくなかったな
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