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第2話 ありふれた表現2
「ぐいぐい来られすぎると怖いし、ナンパとかもさ、第一印象なわけで、お前だからもう言うけど、それって顔なわけじゃん。いろいろもう、いいかなって」
「あぁ~、確かに」
なんの出会いもない俺からしたら贅沢な悩みのようにも思えるが、普段の伊吹を見ていたら分からないわけではない。どんな女の子も押せ押せで来るし、他人から向けられる恋愛感情というか性欲というかは、隣で見ている俺でもたまにドン引きすることがある。
「逆に春もさ、彼女作んないよな。この前普通にいい感じの子いなかった?」
「うーん。なんか……違うかなって」
「えー、普通に可愛かったじゃん」
「まぁ可愛かったけど、うーん、なんか……」
伊吹の言う女の子は、前にバイト先に新しく入ってきた子だ。なんとなく話すようになって、なんとなく連絡先を交換して、なんとなくDMでやり取りするようになった。そうこうしているうちにこの間ご飯まで行って、ずるずると連絡は続いている。
たぶん普通に考えたらありふれた出会いの一つで、十分なチャンスではあるはずだ。
「最近なんとなく思うんだよなぁ。俺別に女の子じゃなくてもいいのかもって」
ぐるぐると考えているうちに、勝手に口から言葉が転び出た。しまった、と一瞬過ぎて思うが、歯止めがきかない。あれ、これが酔うってことなのか? ストッパーがまるで仕事をしない。
「女の子じゃない……?」
どうかスルーしてくれと願ったものの、伊吹は案の定見逃してくれなかった。普段なら空気を読んで流してくれそうなもんだけど。
「あぁ、いや、別に大した話じゃないんだけどさ。女の子を見て恋愛感情を抱かないとか、そういう話ではなくて。うーん。えー、ようするに、男でも女でもいいし、誰か俺をちゃんと理解してくれる人とヤッてみたいなっていうか……ただの好奇心で、まぁ、たぶん、いけるし。そう考えたら、この子じゃないなって……あぁ、単に理想が高いだけか」
あれ、マジで何言ってんの俺。えっ、ほんとに何言ってんの?
絶対引かれた。急にこんな自己開示されたら困るよな普通。
伊吹の反応が怖くて何事もなかったかのように酒を口に運んだ。なのに沈黙の気まずさは消えない。
「あのさ、今、俺ら酔ってんじゃん? 春なんかベロベロじゃん?」
「えっ、俺ベロベロ?」
「今ならさ、今なら全部、酒のせいにできると思うけど、どう?」
「は?」
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