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第2話
「おはようございます」
「……おはようございます……」
説明会時に会っているとはいえ正面から見つめられるとつい緊張して目を逸らしてしまう。
SHRまで少し時間はありますが行きましょうか、と言われ小さく頷き遼は一誠の半歩後ろをゆっくりとついて行った。
「説明会の日にもお伝えしましたがここが黒崎くんの靴箱になります。この手前がA組、奥がB組用です」
説明を聞き【黒崎遼】と名前の書かれた場所に靴を入れた。上履きに履き替え、一誠とともに2階の教室を目指す。
「〜〜ちゃんこれはぁ……」
「昨日動画でさぁ……」
「小テストの範囲って何ページからだっけ?」
「あのドラマみたぁ…?」
階段を上がっていくたび大きくなる生徒の色々な声が、遼には自分の耳に突き刺さってくるように感じた。自分の話をしているわけではないと頭ではわかっているものの冷や汗が止まらない。
「……黒崎くん?」
走ったわけでもないのに息が酷く苦しく感じ、2階に続く踊り場で足を止める。
遼の様子に気付いた一誠が振り返り、大丈夫ですかと尋ねてきたがそれにも返答することが出来なかった。
「…………ッ………………」
顔を上げられず、額から流れた汗がボタボタと床に落ちていくのをただ見つめるしかなかった。
立っているのも辛くなりその場にしゃがみ込んで動悸が鎮まるのを待つ。一誠の手にさすられている背中の一部分だけがじんわりと温かく感じた。
「どうした?」
顔を上げなくても、2階の方から自分たちに向かって声をかけられたのがわかった。
「白上 くん」
隣で背中をさすってくれていた一誠が声の主に応える。
「先生、その人具合悪いの?誰か他の人呼ぶ?それとも一緒に保健室連れて行こうか?」
「ああ……いえ、大丈夫です。彼は───」
一誠が言葉を選んでいる間も、白上と呼ばれた男が自分に近付いてきているのが足音でわかった。
「大丈夫?」
声がすぐそばまで来る。キラキラ光る金色の髪が視界の隅に入り込んできた瞬間、遼の苦しさと恐怖はピークに達し思わずヒュッと短く息を呑んだ。
男の手が遼の肩に触れる。
「俺に触るな!!!!」
反射的に叫び、触れられた手を振り払った。
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