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第9話

「はい、遼の日誌」 「ああ、ありがと」  日直のサヤに渡されたノートを受け取り、先週末に書いたページを確認する。   【9/8(月)〜9/12(金) 今週の出来事・感想】 《木曜日にやった美術の授業が特に楽しかったです。前の学校では美術の授業はなかったので新鮮でした。あと、今日は初めて購買に行けました》 【担任より】 《良かったですね。これからも様々な授業や行事がたくさんあるのでぜひ楽しみながら参加してください。昼時の購買には美味しいものがたくさん売られていますね。焼きそばパンが僕のイチオシです》  一誠からのコメントに思わずふふっと笑みが溢れる。  毎日予定帳の代わりに翌日の授業予定を書き、金曜日に感想を書いて提出する───最初に日誌の説明を聞いた時は日直の仕事じゃないんだと少し驚いたものだが、いざやってみると交換日記みたいで面白かった。  今度みんなにも購買のおすすめを聞いてみようかと考えていると斜め後ろから肩を叩かれた。 『次、体育だから着替えに行こう』  体操服を持って待っている唯を見て授業変更があったことを思い出す。 「やばっ!悪い、ちょっと待って」  慌てて体操着を準備する遼に『まだ時間あるから大丈夫。そんなにヤバくない』と唯が笑う。 「今日雨だけどそういう時って体育館でマラソン練習すんの?」  12月に行われるマラソン大会に向けて秋以降の体育はその練習が主だと聞いている。  更衣室に向かいながら遼が尋ねると唯は首を横に振った。 『雨だと体育館で別のことするよ。何やるかは先生の気分次第だけど』 「ふーん……」  引き籠もっていた期間が長かったことを考えるとある程度覚悟はしていたつもりだったが、想像よりもはるかに体力が落ちていることを転校してから痛感していた。  がっつり球技とかじゃないといいな……とこっそり願いつつ更衣室のドアを開ける。 「……っぶね!」 「…………!!」  ドアを開けた瞬間、同じタイミングで出てきたB組の律とぶつかりそうになり寸前で足を止める。  ちゃんと見ろよ、とイラついた表情の律に肩がビクッと跳ねる。ごめん、と小さく謝った。 「律くんまたイライラして〜。カルシウム足りてないんじゃないですか〜?」  一瞬ピリっとした空気が流れたものの律のすぐ後ろからきた藍原理人の穏やかな口調がその雰囲気を中和した。 「はあ?年がら年中同じもんばっか食ってるお前に言われたくねーんだけど」 「俺の昼食は栄養をきっちり計算して作ってるお弁当だから別に良いんですよ〜。そんなことよりほら、入り口にずっと立ってるほうが邪魔になっちゃいますよ〜」  着替え終わったんだから俺らははやく体育館行きましょ〜と理人が律を更衣室から押し出した。 「朔くん、俺ら先に体育館行ってますね〜」  理人が更衣室の中に向かって一声かけ、律を連れて行くのと入れ替わる形で唯と共に更衣室に入る。 「悪い、ちょっと片付けるから待ってて」  5台あるロッカーのうち手前2台は既に鍵が閉まっていることから理人と律が使用中なのがわかった。  ちょうど真ん中を使っていたらしい朔は入ってきた遼と唯に一瞬視線を向け、そう言いながら脱いだ服をロッカーにパパパッとしまっていく。 「…………別に通れるから大丈夫」  それだけ言って1番奥側のロッカーを開ける。「そう?」と笑う朔の視線を感じたが、顔は向けず頷きだけを返した。間に唯が入ると内心で安堵のため息をつく。 『今日の体育何やるか聞いた?』 「今日バトミントンだって」 『バトミントンか。久々だな』  黙々と着替えながら唯と朔のやりとりを横目で確認する。  こういう時自分も何か喋ったほうが良いんだろうなとは思うものの、いざ会話を試みようとすると視界に入った朔の金色の髪が過去のトラウマを彷彿とさせ、毎回会話どころではなくなってしまう。  学校やクラスには少しずつ慣れB組とも授業で何度か顔を合わせてはいるものの、どうしてもその恐怖を払拭出来なかった。

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