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第10話
「遼、もうバテてんのか?体力ないなー」
「……………………。」
2人1組の練習ラリー。
サヤが運動が得意なことはなんとなくわかってはいたが、どこに打っても絶対に打ち返してくる様は圧巻だった。
もうすぐ試合始まるから向こうで一旦休憩してれば?とサヤが指差す先には隅の方で既に体育座りをし見学する気満々の亜希がいた。
「……亜希と唯はもうラリー終わったのか?」
『俺はまだやろうって言ったんだけど』
「体力チャージも大事だからね。ほらほらここに座りたまえ」
なにその突然のキャラ変、と笑いながら遼は亜希の隣に腰を下ろす。同時に唯はサヤに呼ばれコート側に走って行った。
「私は昔から運動全然ダメなんだけど遼も同じタイプ?」
「……んー……まあ……そんなに積極的に運動はしないかな……」
「よし、じゃあ一緒に上手い人をみて研究しよう!」
サヤとトーカは特に運動神経抜群なんだよ、と笑う亜希と共にコートに目を向ける。朔とトーカのB組ペア、サヤと唯のA組ペアでダブルスの試合が始まっていた。
「おい朔、トーカ、負けたら許さねえからな!」
「勝ち負けに拘ってるの律くんだけですよ〜。俺らは静かに点数係やりましょ〜」
試合よりも目立っている律とそれを穏やかに宥める理人のやりとりに思わず笑ってしまう。
「そういえば遼、体調はもう大丈夫?」
「ああ、家でもゆっくり休んだし……ありがと」
「最初ってやっぱり疲れるよね。私も去年入学したばっかりの頃はよく風邪ひいて休んだり早退してたよ」
コートではスパッとサヤの鮮やかなスマッシュが決まり、サヤと唯が笑顔でハイタッチをしている。
遼と話しながらも「すごーい!がんばってー!」と明るい声で応援する亜希の姿とその言葉に意外性を感じつつ、そうなんだ、と短く返した。
サヤ達と張り合えるB組も凄いなと何気なくトーカと朔に目を向けると、一瞬のその視線に気付いたらしき朔と視線が交わり慌てて顔ごと背けた。
「……遼は朔が苦手?」
複雑な表情の亜希と目が合う。
「苦手っていうか……………………怖い」
「何かされた?」
亜希の口調は遼を非難するようなものではなく、純粋な疑問として聞いているようだった。
「されてないけど…………昔周りにいた奴に似てて……」
嫌な記憶を鮮明に思い出しそうになり、無理矢理手に持っていたミネラルウォーターを喉に流し込む。
そっか、と返答した亜希はそれ以上聞いてくることはなく一瞬沈黙が流れたが「あ、見て遼!いつのまにか点数こされてるよ!応援しないと!ほら!」とすぐ元の明るい口調に戻った。
亜希の言葉で改めてコートに目を向けると今度は丁度朔のスマッシュが決まったタイミングだったらしく「ナイス〜!」と笑顔のトーカと軽くハイタッチをしていた。
その姿をみていると、俺が勝手に重ねているだけなんだよなと改めて自分の身勝手さに嫌気がさしてくる。
制服も学校もクラスメイトも先生も住む家すら変わったのに、自分だけがずっと“あの頃”から抜け出せずに留まり続けている。
でもどうしたらいいかわかんないし、と試合に盛り上がる周りに反してひとり鬱々した気分になってきた矢先「いや、やっぱ大事なのはちょっとの勇気とチャレンジ精神だと思うんだよね!」と隣の亜希が一際大きな声を出した。
「え?」
心の中を見透かされたのかとドキリとしたものの、かわりに鬱々とした気持ちはどこかに流れていった。
「ん?いやみんなの試合見ててさ、どうしたらあんなに上手く出来るのかなあって。技術というかコツを知りたいなと思ったんだよね。まあ元の運動神経の差って言われたらそれ以上どうしようもないと思うんだけど」
でもやらないと上手くなることはないし、と笑う亜希の笑顔がいつもより眩しく感じる。
───知る勇気と挑戦心。
亜希の言葉は驚くほどスッと遼の心の中に入ってきて、避け続けて時間が解決するものでもないなと今度は冷静に考えることが出来た。
「サヤ達に今度コツ教えてもらお〜!っていうかまず今の試合が終わったら次は私と遼が試合に出よう!」
「……ああ。やろう」
太陽のような明るさのクラスメイトに遼の口元にも自然と笑みが溢れた。
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