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第11話
「えーっと英語が単語帳25ページから30ページで数学がテキスト15ページから25ページ……現代文が……」
ぶつぶつ呟きながら数週間後に控えている中間テストの範囲表とテキストを見比べていた亜希が、突然電池が切れたように机にバタンッと頭を伏せた。
「無理だぁ…」
「諦めんなよ、まだ全然時間あるだろ」
ほらこれで元気チャージしとけ、と隣の席のサヤが亜希にチョコを渡す。
「ありがと……でも本当に何かご褒美がないとやってられないよ……遼と唯もそう思うよね!?」
「え……」
チョコをもぐもぐしながら急に力強く同意を求めてくる亜希に若干戸惑いながらも「んー……まあ……確かに……?」とこたえる。
『じゃあテスト終わったらみんなで飯食べに行く?』
唯の提案に亜希が目を輝かせる。
「行くー!!」
どこ行く?いつ行く?なに食べる?とさっきまでのしょんぼりした様子は嘘のような亜希の姿に「その前にテスト頑張らないとだろ」とサヤが苦笑する。
『何が食べたいか遼も考えといて』
唯の言葉に遼が頷くのと予鈴が鳴るのがほぼ同時だった。
「ん、そろそろ行くか。次家庭科だったよな」
サヤのその言葉を合図に4人で家庭科室に向かう。
「今回は何作るんだろうね〜春頃にみんなで作ったクレープ美味しかったな〜」
亜希の言葉に授業への興味がわく。遼がこの学校で家庭科の授業を受けるのは今回が初めてだった。
「───はい、じゃあ今説明したように今からみんなでくじ引きをして1班と2班に分かれてもらいます」
今回作るのはカレーです。ただクラス関係なく交流を深めてもらうために今回はくじ引きでグループを決めます。調理実習は来週なのでそれまでにグループ内で話し合って買い物をしたり作り方を調べておくこと──────家庭科教師の説明に喜びと驚きのざわつきが家庭科室内に広がった。
遼の中に広がったのは後者の感情だった。今までの美術や体育は授業内容は合同でも基本的なグループやチームはクラス単位で固まっていたが、くじ引きで班決めとなると自分以外全員B組という確率もあり得る。
そんな遼の戸惑いをよそに授業は進行していき、名前を呼ばれた生徒からくじを引き席を移動するよう指示があった。
「はいじゃあ次───黒崎くん」
「………はい」
あっという間に自分の番になり、手のひらにかいた汗に気持ち悪さを感じながらくじを引く。
書かれていた1という数字とともに1班のテーブルに視線を向けると、既に座っていた唯と目が合い胸を撫で下ろす。
「───次、紫賀さん───はい、じゃあ次──────」
椅子を1班のテーブルに移動させ唯の隣に座る。カレー作るんだったよな…とさっきまで班決めでいっぱいだった遼の頭にやっと本来の授業の主旨を考える余裕が生まれた。
「あ、朔くんも1班なんですか〜一緒ですね〜」
安堵からぼんやりしていた意識が理人の声と朔という名前に一気に現実に引き戻される。
声のほうに顔を向けるとテーブルを挟んだ向かい───同じ1班に理人と朔がいることに気付き、おさまったはずの汗が再び滲むのを感じた。
「───はい、じゃあみんな席につけたかな?最初に説明した通り来週の家庭科の時間、今割り振られた班で協力してカレーとサラダを作ってもらいます。持ち物は───」
家庭科教師の説明に「なんで俺だけ女子とやんなきゃなんねーんだよ!」という律の声が被る。
「しょうがないでしょ〜くじで決まったんだから」
「律、静かにして。先生の説明聞こえない」
「お前は誰と組んだってどうせ文句言うだろ」
2班のテーブルでは、ぶつぶつ文句を言う律に亜希、トーカ、サヤそれぞれが冷たい視線を浴びせていた。
「買い物からみんなで出来るの楽しみですね〜」
『予算決まってるから最初に買い物リスト作らないとな』
「買い物行く日も最初のうちに決めとかないとだよな。予定合わないと困るし───」
隣の班とは対照的に自分以外が穏やかに話を進めている中、正面に座っている朔への未だ拭いきれない恐怖と、これをきっかけに朔自身を知って恐怖を断ち切っていかないとという思いの葛藤が遼の頭をしめていた。
ぐるぐる考えているうちにあっという間に午後の授業も終わり、帰りの支度を始めようとしたところ担任の一誠に「黒崎くん、少しいいですか?」と呼び止められた。
「急で申し訳ないんですが今週から委員会をお願いしたくて」
「委員会……」
「はい、黒崎くんには美化委員をお願いしたいと思っていて。詳しい内容と委員会メンバーの説明をしたいので、今から一緒に委員会活動をやっている教室まで行きましょう」
頷いて一誠の案内についていく。転校初日に一誠と2人でA組の教室に向かった時のことを何気なく思い出した。あの時は教室にもスムーズに入れなかったのに、この数週間で行ける場所や一緒に行動出来る人が増えたことにじんわりと嬉しさを感じる。
「美化委員ってどんなことをするんですか?」
経験がなく、考えても具体的なイメージがわかなかった。
「掃除や草取りなど名前の通り校内を綺麗にする活動が主ですね。活動頻度はそんなに多くないですが……具体的な活動日時などは委員長の子が教えてくれるので安心してください」
「へぇ……何人くらいいるんですか?」
前に亜希と唯と一緒にサヤの放送委員の活動をチラッと見たことを思い出しながら一誠にそう尋ねる。
「委員長の柊木 くんが1人でやっています。なので黒崎くんを含めても2人ですね」
「えっ」
4〜5人くらいを想像していたため、ひとりという単語に面食らう。1人で委員会って成り立つのか。そう疑問に思ったものの口には出さなかった。
「着きましたよ、美化委員の打ち合わせ場所はここです」
そう言うと一誠は教室のドアを開けスタスタと中に入っていく。
待って先生俺まだ心の準備出来てないんだけど……と慌てながらも一誠の背中越しに恐る恐る教室の中を覗く。
ガランとした教室の中でひとり作業をしている狐の面を被った男子生徒と目が合った。
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