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第12話
「柊木先輩?知ってる知ってる、あのお面被った人でしょ?」
「あの人この学校の生徒会長もやってるよな。美化委員なのは知らなかったけど」
『直接何かで関わったことがあるわけじゃないけど校内でよく見かける』
美化委員初日の翌日、昨日の委員会はどうだったかと亜希達に問われ、遼は柊木のことを口にした。
やっぱりみんなお面の人って認識なんだ……と少しほっとしながら昨日の柊木とのやりとりを思い出す。
「あ、俺が説明するから先生は職員室帰っていいよ。今日は説明だけで活動しないし、終わったらちゃんと報告しに行くし」
教室に入ってきた遼を見るなり柊木はそう告げた。言われた一誠も驚いた様子は見せず「そうですか、ではお願いします」とふたつ返事で教室を出て行こうとするため思わずその腕を掴み目線で訴えたが「大丈夫です、下の職員室にいるので何か困ったことがあったら呼んでください」と優しい表情とともに掴んだ手を離された。
困ってるのはまさに今です、と重ねて訴えたかったが、遼が口を開くよりもはやく「大丈夫ですよ」と一誠は繰り返す。
「……………………はい」
一誠の言う『大丈夫』にはきっと色々な意味が込められているのだろう。そう思い、それ以上は引き留めず頷いた。
「では柊木くん、職員室で報告待ってますね」
「はーい」
一誠が教室から出ていくと、柊木は余っている机と椅子を自分が使っていた席と向かい合わせになるように動かし「ここ使っていいよ、正面のほうが話しやすいから」と遼に声をかけた。
「…………ありがとうございます」
言われた通り席に着くと元の席に柊木も座り「俺は3年の柊木紘。よろしく」と左手を差し出した。
「黒崎遼……です。よろしくお願いします……」
戸惑いながらも差し出された手を握り返す。その温かさに、ちゃんと人間なんだと妙な安心感を覚えた。
祭りで売っているような鼻から上半分の狐の半面。祭りの面との違いは目の部分が真っ黒に塗りつぶされていて、柊木自身の目が外側からは全く見えないことだった。口で表情はなんとなくわかるものの、どこからこっちを見ているんだろうと疑問に思う。
「この面の造り気になる?」
特別に被らせてあげよう、と言いながら柊木がそばに置いてあった鞄を漁ると中から面がいくつも出てきた。よく見ると耳の部分の形や使われている色が若干違うことに気付く。
「これは狸、これは猫。その日の気分によってつけるのかえてるんだよね」
好きなの被っていーよ、と言われとりあえず1番近くにあった猫の面を恐る恐る被ってみる。どれも目の部分が真っ黒に塗りつぶされているのは共通していたが、いざ被ってみると内側からは外がしっかり見えていた。
「…………?…………?」
どういう仕組みなのか不思議で何度もつけたり外したりを繰り返す。面を様々な角度から観察してみたが結局わからなかった。
「不思議でしょ。これ全部特殊な加工してあるんだよね。まあ面作ってるのも加工してるのも俺なんだけど」
「えっ……自分で作ってるんですか?」
「そう、全部手作り」
凄いだろ、という誇らしげな口調に素直に頷く。
面の話を聞いているうちに時間はあっという間に過ぎ、気付けば職員室で終了の報告を待っているはずの一誠が「……もう1時間経ちましたけど話終わりました?」と再び教室のドアを開けにくるほどの時刻となっていた。
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