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2 妹が怖い

フランツ公爵家が出してくださったお迎えの馬車に揺られること小一時間。 あっという間にフランツ公爵家が統治する領に入った。 我がフランツ家の領地とは全然違い、華やかで活気のある街だ。 こんな素晴らしいところに、子爵家のなんの取り柄もないΩ(極め付けは男)が嫁いでいいわけがない。 我が両親は3番目にして長女の妹、シェリルが何よりも大切で、蝶よ花よと育ててきた。 長男は、家を継ぐために努力はしているが、そもそもαなので、そこそこの勉強でも僕なんかの何倍も優秀だった。 全く手がかからず、跡目として申し分ない。 僕はというと、剣術も勉強も不得意で、すっごく努力はしたものの、βに毛が生えた程度の能力にしかならなかった。しかもΩ。 男のαは積極的に家を継ぎ、女性はより高位の家に嫁ぐ。 どっちにもなれないお荷物の男Ω… 性別のカーストがあれば最下位にいるのが僕、シエル・クラークだ。 妹に結婚の申し込みが来た時、両親はそれはそれは悲しんだ。 でも、可愛い娘が今期を逃すわけにもいかないし、うちよりもずっと身分が上のフランツ家からの申し入れを断るなんてありえない。 が、ここでわがままに育てられた妹の無茶振りが発動した。 噂に聞く、お相手のテオドール様は30手前にして騎士団長まで上り詰めた超武闘派。 黒髪黒目の屈強なコワモテ筋骨隆々マン。 金髪碧眼の王子様と結婚したいと常々言っていたシェリルには、絶対認めたくない相手だった。 まあ、テオドール様は社交会で何度か遠巻きに見ただけで、あまりの眼光の鋭さや恐ろしい噂からちゃんと話したことすらないけれど。 そもそも、なぜ、うちに?という疑問もある。 今まで全く関わりがなかったのに… が、来てしまったものは来てしまった者なので頭を抱えていたら、シェリルが、僕を差し出せと言ったため、両親は「そうか!シエルを差し出せば、申し出を断ることにはならないし、可愛いシェリルは手元に残る!」と思い至り、早々に手を打ったのだった。 あまりにひどい。 何より、お相手のフランツ侯爵が可哀想だ。 …、気に入らなければ最悪首を跳ねられる可能性がある僕はもっと可哀想ではあるけれど。 旅立つ時、シェリルに「お兄様は顔はいいから、男だって思われても、テオドール様は受け入れてくれますわよ。くれぐれも、気に入られるようになさってくださいまし」と言われた。 つまり、私のためにも絶対に説得して、兄の僕との婚約を取り付けろということだろう。 本当にこの子は…、可愛い女の子の皮をかぶった女蛇に違いない…
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