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3 今日が僕の命日でしょうか

フランツ公爵家のお屋敷に到着し、馬車を降りると初老の男性が出迎えてくれた。 が、妹のシェリルが来ると思っていたのか、大層驚いた顔をして 「シエル様がいらしたのですか!?」と叫んだ後、「少々お待ちを」と言った後、飛んでお屋敷の中に戻っていった。 僕は、まさか両親が今日の今日までシェリルではなく僕が嫁ぐと言う話をしていなかったのかと、頭を抱えた。 そりゃ、フランツ家の方々は大慌てだろう。 僕…、本当に首を刎ねられるのでは? そう思って震えていると、先ほどの男性が戻ってきた。 「まさか、シエル様がいらっしゃるとは思わず…、取り乱してしまい申し訳ございません。 本日、旦那様は戻らない予定でしたが、予定変更で顔合わせをしたいとのことでした。 奥様のお部屋をご案内しますので、こちらへ」 と、彼は恭しく頭を下げてから僕の手荷物を持ち、僕を屋敷の中へ案内した。 道すがら、今後の僕の直属の付き人になると自己紹介された。 そんなことよりも、両親から「フランツ侯爵は初日はお前に会うつもりはないらしいから、安心しろ」と言われて送り出されたのに まさかのハプニングで僕に会うつもりにしたと知って震えていた。   もしかしたら今夜が僕の命日かもしれない… そのせいで、付き人となったセバスチャンさんの話は右から左に抜けてしまい、名前くらいしか覚えられなかった。 僕が通された部屋はやたら殺風景で、必要最低限の家具だけが置かれた部屋だった。 実家の僕の部屋よりは断然広いけど。 「旦那様は急いで戻るそうなのですが、1時間はかかるでしょうから、お部屋でごゆっくりお過ごしください。 何か必要なものがありましたら、何なりとお申し付けください」 と、セバスチャンさんは頭を下げて部屋から出た。 それからの1時間は、僕の人生の中で1番長く、苦痛な1時間となった。 椅子に座って、旦那様に話す内容を考える。 どうか命だけは…、と懇願するべきか? それとも、もしお嫌なら今すぐでも婚約破棄を認めて、実家に帰りますとか? でも、妹を連れてきますとは確約できない。 なんとかそこは諦めてもらうしか… フランツ侯爵は、僕に会う気はないと聞いていた。 が、どうやら妹のシェリルが来るなら会う気がなかったようで、僕がきてしまったので会うことにした…、と。 一体全体、僕はどうなってしまうんだろう。 セバスチャンさんが途中でお茶を淹れて、お菓子も出してくれたけれど、緊張のせいで全く手をつけることができなかった。
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