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4 初めての付き人
僕の付き人となった初老の男性、セバスチャンさんが僕を呼びにきた。
「旦那様が戻りましたので、リビングにご案内しますね」
僕はその背中についていきながら
「セバスチャンさん」と声をかけた。
彼は振り返って微笑むと「どうぞ、セバスとお呼びください」と言った。
僕がいたクラーク子爵家は、ここほど使用人はいなかったし、父や兄にはいても、僕には専属の付き人なんていなかったので、どう接していいか分からない。
「で、では、セバスさん。
その、フランツ侯爵様はお怒りではなかったですか?」
僕がおずおずと聞くと、彼は驚いて
「旦那様が?お怒りに?
どうしてそう思うのです?」
と、言った。
お、怒ってはいないのだろうか?
「だって…、妹のシェリルではなく、僕みたいなのが来ちゃいましたし…」
セバスさんは「ほほほ」と笑った後、
「それはぜひとも旦那様と直接お話ししてみてください。旦那様のお気持ちを私から言うのは無粋ですから」
とウインクしてみせた。
フランツ侯爵とお話しするのが怖いから聞いてみたんだけど…、セバスさんの飄々とした感じを見るに、盗み聞きするのは難しそうだ。
僕は腹を括ってリビングに入った。
が、そこには誰もおらず、拍子抜けする。
「旦那様は本日、騎士団の練成があったので湯汲みをなさってから来られるそうです。
申し訳ございませんが、ここでしばらくお待ち下さい」
セバスさんが眉を下げて言うので、僕は「全然大丈夫です!お気になさらず!」と手を振った。
セバスさんはほっとした顔をすると
「では、私は席を外すよう旦那様に申しつかっておりますので、退室します。
何かございましたら、こちらを鳴らしてください」
と、ベルを渡して部屋を出てしまった。
え!?セバスさんにいてもらった方が、気が楽なんですけどぉ!?
すぐにでもベルを鳴らしてしまいたい。
けど、迷惑をかけるわけには行かないし、これ以上、フランツ伯爵を怒らせるようなことをしてはいけないだろう。
っていうか、騎士団の鍛錬をした後に、急いで屋敷まで帰ってくるだなんて…、僕ごときにそんな…、と申し訳なく思った。
けど、生涯のパートナーが思ってもなかった男だったなんて、そりゃ一大事かと、納得した。
僕は、今日のために両親が仕立ててくれた上質なトラウザースに何度も手汗を擦り付けて、フランツ侯爵を待った。
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