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5 初めての対面

「すまない、待たせた」 と、よく通る声が聞こえて、僕は弾かれたように椅子から立ち上がって、入り口の方へ振り向く。 部屋着なのであろう、騎士団長にしてはかなりラフな服装の長身ムキムキの大男が歩いてきた。 「でっ…」 でっか!!? αは大柄な人が多く、自分の兄や父も大柄ではあるけれど、初めて近くで見るフランツ侯爵は比にならないくらいデカかった。 「で?」 侯爵が首を傾げた。 大男な上に、顔立ちが端正で、かつ眼光が鋭いせいか余計に威圧感で大きく見えるのかもしれない。 っていうか、本当に男前なんですけど… シェリル…、こんなに面が良かったら、金髪碧眼の王子様じゃなくても良いんじゃないか…? 黒髪黒目の大男でも、こんなにイケメンでムキムキなら引く手あまただろう。 なんせ、侯爵家の長男で騎士団長までしている出来る人だし。 ますます、俺なんかが嫁いでしまったのが申し訳ない。 「あ、えっと、でっか…、ではなく クラーク家より参りました、シエルです」 と、僕は慌てて頭を下げた。 「驚いたな…、まさか本当に兄が来るとは…」 その一言に俺は血の気がさっと引いた。 「も、申し訳ございません!! 本来はシェリルへのお申し出でしたのに 僕なんかが来てしまうことになってしまい… お互い、望まない結婚でしょうし、僕としてはその…、白い結婚でも構いませんし、婚約破棄でしたらすぐにでも飲みますので!」 こんな長文、まったくもつれもせずにスラスラと言えた自分に驚く。 が、本当に怖すぎてフランツ侯爵の顔が見られない。 「望まない結婚か… それはシエルにとってもそうなのか?」 思わぬ質問に僕は驚いた。 僕の方が下位の貴族だし、何せ騙した側の人間なんだから、そこに僕なんかの意思は関係ないだろうと思っていたから。 怖いように見えるけれど、フランツ侯爵様は慈悲深い方なのかも… でも、だからこそ、僕がそこで「望んだ結婚です。破棄されたら帰る家がない」なんて言ったら、無理にでも結婚してくれるだろう。 それはあまりに申し訳ない。 とはいえ、シェリルを連れてくるなんてもっと無理だし… なんて答えるのが正解なんだろう… 「シエル?」 顔を上げると、フランツ侯爵が困ったような顔をしていた。 あ…、屈強なイケメンの困り顔も悪くない…、ではなく! 「望んではいません…、けど 僕はその、形だけの結婚でもいいかなとは思っていて フランツ侯爵様がよろしければ子を成すこともできます」 と僕が言うと、忌々しそうな舌打ちが聞こえた。 驚いて顔を見上げると侯爵様はすごく怒った顔をしていた。 「ひっ…」 やばい、怒らせちゃった!? やっぱりあれかな、子を成すとか気持ち悪かったかな!? だって、僕なんかを抱かなきゃいけないわけだし! でも、侯爵家にとって跡取りって必要だよね? 「あ、えっと、その、女性の側室を置いても、僕は構いません」 僕がそう付け足すと、彼は「もう口を開くな」と怒気を含ませて言った。 ええ!?もっと怒らせてしまった… 僕が許可するなんて、上から目線すぎるってことか…? 弁解しようにも、これ以上口を開けば、本当に首を刎ねられるくらいに怒らせてしまいそうだ。
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