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7 セバスさんとの相談

数分して、入れ替わりにセバスさんがやってきた。 「旦那様より、夕食までシエル様はご自由になさるよう申し付かっております。 いかがいたしましょう?」 「じゃあ、少しだけ邸内の案内をしていただけますか?」 「ええ。それではご案内いたしましょう」 そう言って歩き出したセバスさんの後ろをついて歩く。 不意に、「旦那様がすこぶる上機嫌でした。シエル様のお力です」とセバスさんが言った。 「えっ!?あ…、それは、僕がおかしなことをしたせいです。 意図してやったことではないので…」 だから決して、僕が侯爵様のお眼鏡に適ったわけではない。 「たとえそうだとしても、あんなに嬉しそうな旦那様を見たのは2度目です。長いこと努めていますが、たったの2度です」 と、セバスさんは嬉しそうに眼を細めた。 「2度目…、1度目はいつだったんですか?」 「おっと…、喋りすぎてしまいました。 それは旦那様に直接聞かれると良いでしょう」 は、はぐらかされた… いつかそんなことを気軽に侯爵様に訊ける日が来るだろうか。 今のところ、全然そんな気がしない。 最後は笑ってくれたけれど、結婚の話にしても怒ってたし… ささっと邸内を案内してもらったけれど、あまりに広すぎて、1日じゃ覚えられそうにもない。 基本的にセバスさんがついてくれるし、問題はないだろうけれど… 自室に戻ってぐったりしていると、「侯爵夫人として頑張れそうですか?」とセバスさんに訊かれた。 「僕にはやっぱり分不相応ですよね」 自分でもわかっている。 そもそも、どこかへ嫁ぐつもりなんて無かったから、夫人としてのお勉強も付け焼刃だし、僕は何をするにしても人一倍頑張らないと、上手くこなせない。 それなのに、侯爵家の夫人だなんて…、あまりに無謀だ。 「いえいえ、そう言った話ではなく… 私共の旦那様は令嬢の間では、恐ろしい野獣のようだなんだと噂をされているほど、武骨で強面でございますから…」 セバスさんが困った顔で言った。 確かに妹のシェリルは、僕に擦り付けるほど嫌がっていた。 けれど、僕はご令嬢たちと噂話をするほど社交的ではなかったし、何より、先ほどの小一時間の対面でも言動の端々に優しさや寛容さを感じたし、笑った顔は大型犬みたいだし、恐ろしさはそれほど感じなかった。 「僕は、侯爵様の事はそれほど恐ろしいとは思いませんでした。 失礼な態度を取っても寛大でしたし…、笑うと大型犬みたいです」 「犬ですか?」 セバスさんが目を見開いていて、僕はまたもや自分の失言に気付く。 「あ!え、えっと、違うんです! その、侯爵様を馬鹿にする意図はなくて! だからどうか、侯爵様へはご内密に…」 と僕が慌てて言い訳をしていると、セバスさんは笑って 「なるほど、旦那様がご機嫌になるわけです。 私の口からは決して言いませんが、いつかシエル様から言ってほしいものです。 『旦那様は犬みたいです』と」 と言った。 セバスさんにまで揶揄われてる… どれもこれも僕の失言のせいなので責められない。 セバスさんの笑いが引いたところで、不意に閨事のことを思い出した。 「セバスさん…、あの…」 僕が言いづらそうに口を開くと、「このセバスになんなりと」と先を促された。 「閨って、ど、どうなるのでしょうか。 一応、初夜かと思って、支度はしたんですけど…」 と、僕がもじもじして言うと、セバスさんは目を細めて「そのようなことは旦那様へ直接話してみてください。私が口を出すのは無粋と言うものです」と言った。 ええ!? こんな恥ずかしいことを直接、侯爵様へ訊けと!? 「シエル様もおっしゃったとおり、旦那様は寛大な方です。 奥様からの多少の無礼は笑って許します。 家族や仲間が傷つけられたとなれば武神の如く、何物をも切り捨ててしまいますが」 「ひえ…」 励まされているんだか、脅されているんだか分からないけれど、とにかく、侯爵様へ訊くべきことはセバスさんは答えないみたい。 そうしていると、夕食の時間となり、セバスさんと一緒にダイニングルームへ移動する。
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