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9 閨事の確認
食後のコーヒーが運ばれてきた。
「テオドール様はお酒は飲まないんですか?」
「どちらかというと毎晩飲むな。
今日は初めてシエルに会う日だから、シラフでいようと思ったんだ」
「そ、そうですか…」
それは一体どういう意味なんだろう?
酔っていたら何か不都合があったのか?
僕が不思議そうな顔をしていると、テオドール様し笑って
「騎士団の面々からは、俺は酔うと陽気になると言っていてな。
そんな様子を初日から見せるわけにもいかないだろう」
と言った。
でも、ムッとしているよりかは陽気な方が僕としては話しやすいんだけども。
「明日からは飲むんですか?」
「まあ、気が向いたら飲むかな。
シエルは飲むのか?」
「いえ、僕はめっぽう弱いので…、たまにしか」
「たまに?」
「え、は、はい」
どんな時に飲むのかと聞かれているのは分かるんだけど、答えたくなくて濁した。
僕は元々、雷や地震が恐ろしくて、そういう夜に1人で寝ることができなかった。
飼っていたフラットコーデットレトリーバーのルルが布団に入ってくれることで、なんとか眠れていた。
しかし、ルルが亡くなってからは、どうしようもなくて、少しのワインを飲んで酩酊して眠るようになった。
そういう時くらいだ。
でも、そんなことをテオドール様に言うのは恥ずかしい。
「そうか…、一緒に飲めたら良い思ったんだが」
「申し訳ございません。
2〜3口で酔っ払ってしまい、1杯飲むと泥酔してしまうんです」
「そうか…、流石にそれは危ないな」
「はい。なので、テオドール様は僕は気にせず、お酒を楽しんでください」
そう言うと、彼は「そうしよう」と頷いて、コーヒーの残りを飲み下した。
そのタイミングで僕は口を開く。
ここからが本題だ。
「テオドール様…」
僕の並々ならない様子を見て、彼は何か察したのか「ど、どうした」と姿勢を正した。
うぅ…、言いづらいけど仕方がない。
これははっきりさせないと、僕の準備もある。
「その、今日は初夜ですよね?
閨って、どうしますか?」
蚊の鳴くような声で絞り出した。
「ね…、や?」
素っ頓狂な声が聞こえて僕はテオドール様を見た。
めっちゃ間抜けな顔…、じゃなかった、口をあんぐりと開けて驚いている。
「は、はい。その、僕の支度もあるので…」
「聞いておくが、シエルがしたいわけではないんだよな?」
思わぬ質問に、またも思考が停止する。
そもそも、僕の意思なんて関係ないのに。
「え?はい。テオドール様が望むなら、頑張りますが…、あ、でも!
僕はそういうことはあまり上手くなくて、満足させられるかは分かりませんが…」
「必要ない」
「えっ…、あ…」
「俺は一方的に誰かを抱いたりするような男ではない」
テオドール様に睨まれて、僕は萎縮した。
また変な質問をしてしまったのだろうか…
でも、聞かなきゃいけないことではないだろうか…
「申し訳ございません」
なんで謝っているのか分からないけれど、とりあえず頭を下げる。
「私は仕事が残っているのでこれで失礼する。
あとのことはセバスに聞いてくれ」
そう言ってテオドール様は席を立たれた。
怒っている様子のその背中を悲しい気持ちで見送る。
あんなに和やかな雰囲気だったのに、どうして僕は侯爵様を怒らせてしまうんだろう。
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