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10 大浴場
僕も部屋に戻ろうと席を立つ。
ダイニングの扉を開けてもらうと、セバスさんが待ち構えていた。
「僕、テオドール様を怒らせてしまったみたいです」
と、しょんぼりして言うとセバスさんは、ふふっと笑ってから
「旦那様はセシル様を思って怒られたのだと思いますよ。お気になさらずとも、明日には戻っています」
と言って「さぁ、湯汲みの支度をしましょう」と僕を自室に促した。
「男のΩなんて、テオドール様は抱きたくないですよね。女性が好きですよね」
僕が部屋に着くなりそう言うと、
「それは旦那様しか分かりません。
ぜひ、お話ししてみてください」
と、またはぐらかされた。
そんなこと聞いたら、僕はまた彼を怒らせてしまうと思う。
僕が難しい顔をしていると、セバスさんは少し困ったように笑って「さぁ、湯汲みしましょう」と僕をバスルームに促す。
だだっ広いバスルームに連れてこられたのはいいものの、お付きの人に脱がされそうになり、
僕は慌てて「子爵家では、自分でやってたので!」と拒否した。
侯爵家だと、湯汲みも誰かが手伝うのか…
体を洗い、大きな浴槽に体を沈める。
おいてある石鹸や、浴槽の薬湯?も、どれもこれもが一級品みたいで、
自宅で入っていたお風呂よりもかなりリラックスできる。
僕は相当浸かっていたんだろう…
浴室のドアが開き、「シエル?」と呼ぶ声が聞こえた。
テ、テオドール様の声!?
僕は慌てて「はい!」と返事をして立ち上がった。
「あまりに入っているから、使用人が心配して俺を呼びに…!?」
服を着たテオドール様と目が合う。
彼は驚いた顔をすると、「すまない!」と回れ右をした。
僕は、彼の言動に何が何だか分からなかったが、自分から素っ裸であることを思い出し、もう一度お湯に体を沈めた。
「長々とすみません!!ご心配をおかけしました!僕は大丈夫です!すぐに出ます」
恥ずかしくなって矢継ぎ早に言った。
「いや、構わない。
シエルが長風呂だと言うことを周知させておく。
邪魔をして悪かったな」
そう言って彼は浴室から出ていった。
仕事が残ってるって言ってたのに、手を煩わせてしまって申し訳ない…
使用人の方も、直接僕に声をかけてくだされば良いのに〜、と自分の長風呂を棚に上げて思った。
女性が恋愛対象のテオドール様は、僕の裸なんて同性の裸と同じように思うかと思ったけれど
動揺してらしたし、行為くらいは対象になるんだろうかと考えた。
でもまあ、テオドール様ほどモテそうな方が、わざわざ僕なんか抱くわけないか…
僕は自分の貧相な体を見下ろして思った。
柔らかいところなんて一つもない。
筋肉も贅肉もない…、なんで貧相…
悲しい気持ちでくさくさとしながら、用意されていた寝巻きを着る。
侯爵家で用意してくれたそれは、僕が持ってきたものよりも圧倒的に肌触りがいい。
お高いんだろうなぁ
こんなものまで用意してもらって申し訳ない。
けど…、これどうみてもメンズライクだよね?
シェリルが着る予定だったものではない気がする。
まさか、今日の今日、大急ぎで用意して下さったんだろうか…
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