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13 顔を合わせる時間
その夜は宣言通り、テオドール様は22時近くに帰宅された。
僕は、せめてお出迎えでもと、夕食や湯汲みを済ませてから、リビングで帰りを待って、
「おかえりなさい」と顔を見て言うことができた。
テオドール様は「待っていたのか?」と驚いた様子だった。
僕が頷くと、「明日からは待たなくて良い」と言われてしまった。
「…、ご迷惑でしたか?」
「そう言うわけではないが…、こんな時間まで起きているのは大変だろう」
「テオドール様はこんな時間まで働いたらしたのに?
それに、僕は子供じゃないですよ!」
22時に眠る無職の25歳なんてそうそういない。
「でも…、ご迷惑ならやめます。
少しだけテオドール様のお顔が見たかったんですけど…」
朝はもちろん、顔を合わせるのが難しいし、
明日から昼間に戻らないし、夕食も別々…、そうなったら今くらいしか時間がない。
それとも、テオドール様は毎日顔を合わせるのが嫌なのだろうか。
ちらりと彼を見上げると、なぜか心臓のあたりを抑えていた。
「ど、どうしたんですか!?胸が痛いんですか!?お医者様に…」
「い、いや、大丈夫だ。
確かに痛くはあるんだが、医学的に問題はない」
そう彼に制されて、僕は踏みとどまる。
セバスさんに伝えなくては、と走り出そうとしていた。
「シエルの顔が見られるのは嬉しい。
が、もしかしたら日付を超えてしまう可能性もある。待たせるのは悪いから、寝ていい」
「日付を超える!?
そんな働き方、ダメです!
絶対に早く帰ってください!」
「あ、ああ。善処する」
「僕が起きている時間に戻られたら、
リビングまで出てきても良いですか?」
「…、それは構わないが」
「それでは、明日からそうします。
お疲れのところ、引き留めて申し訳ございません。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
僕は満足して自室に帰る。
セバスさんが「旦那様もさぞお喜びでしょう」と待っていた。
「いえ…、ちょっとだけご迷惑そうでした。
でも、せっかくの夫夫なのに、1日顔も合わせないなんて悲しいので…」
と、僕が言うと「旦那様は迷惑だなんて言いませんよ。顔が見たいなんておっしゃるの、シエル様くらいですし」とセバスさんは笑った。
そうだろうか?
あれだけ男前なら顔ファンのご令嬢くらいいそうだ。顔は怖いけれど。
それに、騎士団長は部下に慕われていると聞いたことがある。
職場でも引っ張りだこに違いない。
僕なんかがお時間を奪うのは申し訳ないくらいだけれど、嫁特典くらい欲しかっても良いだろうと思うので、帰宅後の時間は譲らないけれど。
それから毎日、朝から夕方までたまにセバスさんの元で勉強しながら、夜に少しテオドール様とお話しするくらいでひと月を過ごした。
シェリルに脅されていたのに反して、かなり快適な暮らしをしていた。
フランツ侯爵領に関して、知れば知るほど、豊かでしっかりと統治された領地なのだと分かった。
どれも、テオドール様の手腕に寄るものだろう。
それにしても、テオドール様は早めに帰宅する努力はしているようだけど、かなり忙しいようだ。
αが頑丈とはいえ、体を壊さないか心配だ。
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