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16 眠れない夜(テオドール視点)

少し体を離そうとすると、逆にシエルはくっつこうとする。 「シエル…、少し距離を取らないと…」 俺の理性が崩れそうになるのだが… そう懇願するようにシエルを見下ろすと、彼は「だめ。離れちゃやだ」と涙目で睨み上げてくる。 これは雷が怖いだけであって、俺に対する他意はないのだと自分に言い聞かせて、シエルを寝室に運んだ。 自分のベッドに彼を下ろすと、「いい匂いがする~」と、枕に顔を埋めた。 …、匂いの相性はお互いに悪くないようだ… が…、同じベッドで寝るのは、正直手を出さない自信がない。 シエルに布団をかけてやり、俺は室内のソファに横になる。 「なんで!!」 シエルが駄々をこねている。 「やはり…、シエルが好きでもない相手とベッドをともにするのは良くはな…」 「一緒がいい!!」 俺は何度か説得をしようと試みたが、最終的にシエルが「一緒が良いぃ」と泣き始めたので、これはシエルが望んだためだと言い訳をしてベッドに入った。 広めにこしらえたベッドなのに、俺が端の方に体を滑り込ませると、シエルがぴったりとくっついてきた。 「シエル…、広いんだからもう少し離れないか?」 「やっ」 俺の提案は即刻却下された。 シエルが私を好いてくれているのならば、嬉しい反応だが…、これはただの酒のせいなのだ。 そう思うと少々虚しく感じる。 「ねぇねぇ、シェシーって呼んで? なでなでして」 シエルがあざとく、俺の胸にすりすりと頬擦りする。 そんなに引っ付かれると…、その、立つものが立つというか… 俺は邪な気持ちに蓋をして、シエルの柔らかい頭髪を撫でた。 Ωとはいえ、男のはずなのに、シエルの髪は柔らかくてサラサラだ。 「んん~」と、シエルは満足そうな声を上げている。 「シェシー」 そう呼ぶと、シエルは目を輝かせて俺を見上げた。 「もっと呼んで、ルル」 「ルル?」 「ルルじゃない?」 どこからその呼び名が出てきたか分からないが、29歳の熊みたいな男がルルと呼ばれるのは少々気恥ずかしい。 「どちらかと言うと、テオと呼ばれているが」 「んー…、じゃあテオ」 「ぐっ…」 そんな風に無邪気に呼ばれると、相手が酔っ払いでもうっかり舞い上がってしまうそうになる。 「そうだ。シェシー」 俺はなんとか平静を装って、シエルの髪を撫でる。 気付くと、静かな寝息が聞こえてきて、漸くシエルが眠ったようだった。 よく耐えた… 俺はため息を吐いて、シエルを退かそうとするが、しっかりと俺の寝間着を掴んでいて、密着は免れないようだった。

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