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17 記憶がない朝
頭を撫でる感触。
心地いい匂い。
鼓膜を打つ、心音。
すごく気持ちいい…
不意に手が離れ、ソレが僕から離れて行こうとする。
もう少しこうしていたいと、手を伸ばす。
「ふっ…、またここに来ればいい」
そう言ってソレは僕から離れていった。
ああ…、残念。
でも、もう少し眠っていたい…
心地のいい香りに包まれながら、瞼を指す光に目を開けると、僕は全然知らない部屋にいた。
「えっ!?ここどこ!?
…、これ、テオドール様の匂いだよね…」
つまりここは、侯爵様のお部屋だ。
何で僕、ここに?
なんだか幸せな夢を見ていた気もする。
部屋をノックする音が聞こえ、返事をすると、セバスさんが入ってきた。
「おはようございます。
昨夜は良く眠れましたか?」
「セ、セバスさん…、僕、なんでここに?」
僕がそう言うとセバスさんは驚いた顔をした。
「覚えていらっしゃらないですか?」
「はい。全く。
雷が怖くてワインを2杯飲んだところまでしか」
「おやおや…、私も旦那様に聞いた話しか知りませんが、昨夜、書斎にシエル様が現れて、寒そうだから自室に連れ帰ったと」
「書斎に!?
な、なんてことを…」
最初に書斎は立ち入り禁止だと聞かされていたのに…
僕が顔面蒼白でオロオロしているとセバスさんが
「旦那様が在室の場合は、いつでもいらっしゃって構わないとおっしゃっていました」
と言った。
「そ、そうですか…」
とりあえず、今回の事は怒られはしないのかな?
いつでも、とのことだけど、お仕事の邪魔をするのは良くないし、非常時以外は行かないようにしよう。
「さて、シエル様。
そろそろお食事はいかがですか?」
「そうですね…」
そういえばお腹が空いたな、と思って時計を見る。
11時!?
え!!?
「ぼ、僕、こんなに寝ていたんですか!?
も、申し訳ございませんっ」
僕がベッドから跳ね起きる。
あれ?
僕、なんでこんな広いベットの端っこで寝ていたんだろう?
「お気になさらないでください。
旦那様から、雷が怖かったのか、寝付いたのは0時をとうに過ぎていたからゆっくり眠って頂くよう、指示を頂きましたので」
「そうですか…」
夜更かしの原因が雷だなんて、恥ずかしいやら何やら…
だが、食欲には抗えないので、僕は美味しくご飯を頂くことにした。
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