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18 久々の夕食
その日はテオドール様のお帰りが早く、丁度僕が勉強をやめてダイニングに向かおうとしているときだった。
自室に向かわれるテオドール様とばったり出くわし、僕は今朝の事に少々恐れつつ「テオドール様、おかえりなさい」と声を掛けた。
「テオとは呼んでくれないのか」
と悲しそうに言われ、僕は「え?」と声が漏れる。
だって、まだ嫁いできてひと月も経っていない。
最初のうちはテオドール様と呼ぶ、の最初のうちじゃないだろうか?
僕が困惑していると、テオドール様は「いやいい、ただいま」と言って、すれ違いざまに頭を撫でて行かれた。
急な接触にどぎまぎしつつも、その大きい手の感触が何故かしっくりときて不思議に思った。
しっくりくる、なんて思うほど、テオドール様の手に触れたっけ?
僕がぼんやりと立ちすくんでいると、セバスさんが「シエル様?どうなさいました?」と心配していたので、「なんでもないです!」と僕は慌ててダイニングルームに向かった。
その夜は、初日ぶりにテオドール様と夕食を食べた。
相変わらず、所作が美しい…
フランツ侯爵家に来てから、かなり意識して食べているが、テオドール様の足元にも及ばない。
セバスさんにも言われたけれど、僕もいずれはテオドール様と一緒に社交会や食事会などに御呼ばれすることになるだろう。
その時、あまりに夫と差があっては良くはないはずだ。
頑張らなきゃ…
なんとか食事を終え、給仕に「食後にお茶はお出ししましょうか?」と訊かれる。
テオドール様に「シエルは時間あるか?」と聞かれ、僕は「テオドール様が良ければご一緒にお茶を飲みたいです」と伝えた。
お茶が運ばれてすぐに僕は「昨夜は本当に申し訳ございませんでした」と謝った。
テオドール様は「セバスから記憶がないと聞いているが?」とニヤリとしていった。
「ええ…、はい。記憶はないんですけど、
書斎に入ったり、ベッドに入ったり…、その他にも大変ご無礼を働いたんじゃないかと思いまして…」
僕が手汗をトラウザースに拭っていると、テオドール様は声をあげて笑った。
「本当にシエルは俺の予想を超えるから飽きないな。
あんなのは全く無礼には当たらない。
妻なんだからな。
まあ、飲酒は俺のいないところでは控えてもらおう」
そんなに笑うほどの醜態を晒していたんだろうか…
記憶があれば、謝りようがあるのに…
僕は羞恥で顔を真っ赤にしながら「飲酒は決して外では行ないません」と自分に言い聞かせるように言った。
笑いが収まったのか、テオドール様は「雷が怖ければまた添い寝をしてやる」と僕を見つめる。
その目があまりにも優しげだったので、僕の心臓はしばらくの間、せわしなく脈を打っていた。
リラックス効果のあるハーブティが作用しないほどに。
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