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19 美しい訪問者
今日も日課の、セバスさんとの勉強会をしていると、いつもは静かな屋敷が騒がしくなった。
いつも鷹揚に構えているセバスさんも「おや…?」と首を傾げて廊下につながる壁に視線を向けている。
「何かあったかもしれませんので、私は少々確認して参ります。
万が一の場合がございますので、シエル様はこちらでお待ちください」
セバスさんはそう言うと、颯爽と扉を開けて行ってしまった。
僕がここに来てから初めての事だ…
僕は言われたとおり、大人しく椅子に座って待つことにした。
数分後、部屋の扉が大きく開け放たれた。
このお屋敷の人は、誰もがノックをして扉を開ける。
一体何事!?と僕は驚いて扉を見た。
そこには、金髪碧眼の麗しい…、美女が立っていた。
彼女と見つめ合って、数秒…
僕が何も発せずにいると、彼女はにっこりとほほ笑んで「ごきげんよう」と高らかに挨拶した。
呆気にとられた僕は「あ、こ、こんにちは」と返すのが精いっぱい。
美女はツカツカと部屋に入り込み、僕の向かいの椅子に腰を下ろした。
見たところ、僕と同年代位に見える。
「あなたがお兄様のお嫁さん?」
「えっ…?」
僕がポカンとすると、彼女はたちまち眉根を寄せて「やだ!お兄様ったら、この可愛い可愛い私の事を、紹介してないの!?」と怒った口調で言った。
「もしかして…、お兄様ってテオドール様の事?」
全然、顔も髪色も身長も似てはないけれど、状況から考えるとそれしか考えられない。
「そうですわよ。紹介されているものだと思いましたから、混乱させてしまって申し訳ございません。
テオお兄様の腹違いの妹のマーガレット・フランツよ。
マギーと呼んでね、シエル」
強引な人かと思ったけれど、砕けた口調で人懐っこくほほ笑むマギー様に僕の緊張も少し解れた。
「初めましてマギー様。フランツ家に嫁いできました、クラーク子爵の…」
「固いわね。
私たち、同い年なのよ!
敬語も様付けも不要よ、シエル」
「で、でも…、僕は子爵家ですし、マギー様は…」
僕がそう言いかけるのを遮り、彼女は「今は同じフランツの姓じゃない」とあっけからんと言ってのけた。
「そ…、そうですね」
そう言われてしまうと反論が出来ない。
まあ、僕は嫁いだことで与えられた運だけの爵位だけど…
「そうでしょ?それならやっぱり対等でいいわよ。
それとも、私はお義兄様と呼んだ方がよろしい?」
「いえ!!シエルで構いません」
僕が慌てて言うと、彼女はクスリと笑って、「改めて、これからよろしくね」と手を差し出した。
「…、よろしく」と僕は恐る恐る、その華奢で繊細そうな手をそっと握り返した。
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