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20 彼女の話

「ところで、シエルはここに来てから毎日籠ってお勉強してるの?」 彼女はそう言いながら慣れた様子で、僕の机の上のベルを鳴らした。 慌てた様子でセシルさんが戻って来た。 僕とマギーを見るなり、「マーガレット様!こちらにいらっしゃったんですね」と、ほっと息をついている。 騒ぎはマギーによるものだと知って、ずっと探していたのかもしれない。 「セバス、久しぶりね。 お茶をお願いするわ。シエルの分も」 急に現れたマギーがセバスさんと長い中のように言葉を交わしていて驚いたけれど、彼女はフランツ侯爵家のご令嬢なのだから、当たり前のことだ。 逆に、どうして今までこのお屋敷にいなかったのか… マギーの正体について、いろいろと推測していると、セバスさんがお茶を出してくれた。 「セバス、シエルを借りても構わないでしょう?」と、セバスさんに言い、僕にも「ね、少しお話ししましょう?」と尋ねた。 セバスさんが「勿論です」と言うのを聞いた後、僕も「僕でよろしければ」と答えたため、急遽マギーとのお茶会になった。 彼女は先に細かく自己紹介をしてくれた。 テオドール様のご尊母は、彼が4歳の時に病気で亡くなり、すぐに継母となった女性との間に生まれたのがマギーだった。 だから、2人はあまり似ていないけれど、腹違いだのと気にせずに「お兄様は私をとても可愛がってくれた」と嬉しそうに話していた。 テオドール様じゃなくても、マギーの天真爛漫さで可愛がるに違いないとは思うけど。 そんなマギーは将来的に殿下との結婚が決まっているため、王宮に住んで王妃となる準備をしている。 だから、今日の今日まで顔を合せなかったのかと納得した。 マギーは兄の結婚を、殿下との雑談の中で知ったらしく、憤慨して本日実家に突撃することとなったようだ。 「お兄様ったら信じられないわよね!! 婚約者から、兄の結婚を知るだなんてフランツ家の恥だわ!!」 と、息を巻いていった後にしゅんとして 「たった1人の妹なんだから、教えてくれたっていいじゃない…」と、しょんぼりと呟いた。 その姿は寂しそうで痛々しく感じられた。 我が妹シェリルとは違い、仲のいい兄妹なのだと思った。 そんな空気を変えるように、彼女は「でも、シエルがとても可愛らしい人でよかったわ!」と僕に笑いかけてくれた。 兄が男Ωと結婚する、と聞いた時は、「侯爵家であり騎士団長もしていて、モテないわけではない兄がどうして!?」と混乱したそうだ。 「失礼な事言っちゃってごめんなさい」と、謝られたけれど、僕は今でもそれが不思議だから何とも思わなかった。 彼女はしきりに僕を「可愛らしい」と褒めてくれたけれど、マギーや妹のシェリルと比べると、やはり女性よりは可愛いとはとても思えなかった。 マギーはαで、話していて器量の良さや頭脳の明晰さをひしひしと感じた。 聡明な彼女なら、難なく王妃として活躍しそうだ。 僕もこんな風に自信満々にテオドール様の隣に立てる資格があればよかったのに…

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