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22 殿下との僥倖

お城より質素で広い建物に入ると、屈強な騎士たちが素振りなり、実践練習なりをしていた。 ふいに、ある人に目が止まる。 遠くてもわかる。 テオドール様だ。 騎士たちはβもいるけれど、αが多く、皆体が大きいけれど、一際背が高い、屈強そうだ。 真剣に部下と思われる人と、対抗戦をしている。 かっこいい…… 僕が足を止めて眺めていると、隣からクスリと笑う声が聞こえた。 「ふふ、騎士をしているお兄様はかっこいいでしょ?」 マギーがニヤニヤと僕を見ている。 咄嗟に否定しそうになったけれど、失礼だし、見惚れていたのは事実なので、僕は「うん」と素直に頷いた。 「来週から遠征に行くみたいね。 お兄様もかなり気合が入ってるわ」 「そうなんだ…」 マギーと久々と話していると、「マギー!!来てくれたのか!」と声がかかった。 「殿下!」 マギーが嬉しそうな声を出す。 何度か遠くから眺めた我が国の殿下が、騎士の練習着を着て剣を腰に下げている。 「こちらは?」 殿下のアメジスト色の目が僕に向く。 ひぇぇ…、端正なお顔… テオドール様のような野生みはなく、すっきりとした王道のイケメンだ。 陽の光を浴びたシルバーの髪が美しく煌めいている。 「は、初めてお目にかかります。 シエル・クラー…、ではなく、フランツです」 僕が頭を下げる。 マギーが弾んだ声で「お兄様の奥様よ!私の2人目のお兄様!」と僕を紹介した。 殿下は驚いた様子で「君がテオの!?」と僕を凝視している。 「もお、殿下!そんなに人妻をジロジロ見るなんて、私を嫉妬させたいんですの?」 と、マギーが尖った声を上げる。 殿下はそんなマギーを笑うと、 「失礼した。珍しくテオの機嫌が良いから、一体どれほど素晴らしい嫁を貰ったんだと思っていたんだ。 これなら納得だ。随分と可愛らしい嫁をもらったんだな。もちろん、マギーが1番可愛いが」 と、微笑んで言った。 殿下に褒められるなんて、キャパがオーバーしてしまい、僕は真っ赤になって固まった。 お世辞だって分かってるけど! だって、相手は皇太子殿下なんだもの… マギーは「殿下ったら〜」と頬を染めて照れている。 それを微笑ましく見る殿下… 馬車で、マギーは私の方が殿下を好きで困ってると、愚痴のような惚気を言っていたけれど、 僕が見るに殿下もかなりマギーを好きだと思う。 これは他の花嫁候補が付け入る隙なんてないな。 僕が微笑ましくその様子をみていると、「殿下」と、他の騎士が話しかけてきた。 「ああ、どうした?」 「マーガレット様がいらっしゃったなら、お茶を準備しますが」 「そうだな…、少し休憩をしよう。 シエル殿は?」 こんなに仲睦まじいお2人に挟まるのは申し訳なさすぎる! それに、僕はテオドール様が見たい。 「あの、僕はもっと練習の風景が見たいので」 と、断ると、マギーが「お兄様を見たいものね」と茶化した。 「なっ…、それはそう…だけど!」 わざわざ言わなくていいでしょ! しかも、殿下はテオドール様と仲が良いようだし、告げ口されたら恥ずかしい。 殿下は「それもそうだな」とニヤニヤして、話しかけてきた騎士に「彼は団長がよく見える場所に案内してくれ」と指示した。 その騎士は僕を見て驚いた顔をした後、ハッとして「承知しました!」と敬礼して踵を返した。 「じゃあ、私たちは中庭に行くわね。 誰か案内してくれるから、シエルは少しだけここで待ってて。 私が連れてきたのに放置してごめんなさいね」 マギーはそう言うと、殿下と連れ立って、お城の中に入って行った。

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