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24 僕が不貞なんてしません
強い力で引き摺られたまま、休憩所のようなテントの下に連れてこられた。
「…、なぜこんなところに来た?」
テオドール様の剣幕に、僕はやはり見学に来るなんて迷惑だったのかなと悲しくなる。
「も、申し訳ございません…」
「俺は理由を聞いているんだ」
こんなにテオドール様を怖いと思ったのは初めてかもしれない。
理由…、ちゃんと言わなきゃと思うのに、喉が張り付いてうまく言葉が出てこず、
僕は涙目で「すみません…」と蚊の鳴くような声を絞り出すことしかできない。
「だから、謝ってほしいわけでは…」
少しだけ柔らかくした口調でテオドール様が言った瞬間に、「お兄様!」とマギーの声が飛んだ。
「やだっ、そんな風に詰め寄ったらシエルが可哀想ですわ!」
マギーが僕とテオドール様の間に立った。
僕をかばうように背中に隠す。
「マ、マギー…」
僕がぼそりと呟くと、テオドール様はまた眉間にしわを寄せて「マギー?」と低く言った。
勝手に妹に馴れ馴れしくするなと、またテオドール様を怒らせてしまったかもしれない。
「お兄様!そんなにシエルを威圧しないでくださいませ」
「しかし…、俺だって妻の不貞を見逃すわけにはっ」
そんな風にフランツ兄妹が言い合っていると、先ほどの若い騎士が「団長、誤解なんです~!!」と半泣きで飛び込んできた。
きっと彼がマギーを呼びに行ったのだろう。
僕よりも悲壮な顔をしている。
「誤解だと?」
「ひっ!?」
テオドール様の威圧に、騎士は今にも失神しそうだ。
かくいう僕も、威圧感に今にも座り込んでしまいそうだった。
「お兄様ったら!シエルはΩなんですのよ!
こんなに真っ青になって…、今すぐ威圧を止めて!」
チラリと僕の方を見たテオドール様が、威圧を緩め「…、誤解とは?」と騎士を見た。
「私は決してシエル様と抱き合っ」
「フランツ侯爵夫人と呼べ」
「えっ?あ、申し訳ございません!
夫人と抱き合っていたわけではなく、転倒されそうになったところをお支えしただけなんです!」
決して、下心なんかではなくて!」
そこで僕はようやく、自分が不貞行為をした疑いを掛けられていたことを察した。
「テオド…、いえ、フランツ侯爵様っ!
僕は不貞なんてするつもりはなくって」
「シエル」
「ひっ…」
またもやテオドール様に睨まれて、僕は一歩踏み出した足を下げ、マギーの後ろに隠れた。
「誰に嫁いだか忘れてしまったのか?」
またテオドール様から威圧感が出てきて、僕は「自覚が足りなくて申し訳ございません。二度と侯爵様の職場には来ないのでお許しください」と泣きながら謝った。
「もう!なんでそういう言い方しかできないんですの!シエルを泣き止ませてくださいまし!
貴方はもう戻っていいわ」
マギーがテオドール様に嚙みつき、マルコスさんを持ち場に戻らせた。
「僕は勝手に泣き止むので大丈夫です!
道も覚えているのでお屋敷まで帰れます!」
と僕は慌てていたけれど、兄妹どちらからも却下され、またテントの中にテオドール様と2人だけ残された。
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