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25 見られたくない嫁

「本当にご迷惑をおかけして申し訳ございません」 僕は沈黙に耐え切れず、先に口を開いた。 「迷惑だなんて思っていない。 が…、言ってくれればいくらでも俺が見学の案内をした。 それに、随分とマーガレットと親しくなったようだな。俺を差し置いて…」 「っ…、ご尊妹と馴れ馴れしくしてしまって、申し訳ご」 「そうじゃない」 「え?」 下げかけた頭を持ち上げると、彼は苦い顔をしていた。 「俺の家族と仲良くなるのは構わない。 だが…、俺以上に仲良くなられるのは困る」 困る…? どういうことだろう? でも、困らせてしまったのなら、僕が悪いんだろう。 「マギ…、マーガレット様はお兄様をとてもお慕いしていらっしゃいました。 だから、僕なんかが侯爵様からマーガレット様を奪うようなことはあり得ません」 僕はテオドール様よりもマギーと仲良くなったりはしない。 というか、出来ない。 だから、安心してほしいんだけれど。 「そういう意味では…、はぁ」 何かを言いかけた彼が、諦めたようにため息を吐いた。 「この話はもういい。屋敷に戻るぞ」 テオドール様が踵を返す。 「えっ!?あ、あの、僕一人で戻れます!」 「そんなペショペショ泣いてる妻を一人で帰せないだろう」 テオドール様があきれたように笑った。 僕は、袖口でぐいっと目を拭って「泣いてません!」と言ったけれど、「そんな風にして傷がついたらどうするんだ!」と叱られ、馬車に詰め込まれた。 馬車が発車しそうになり、僕は「お仕事を邪魔したくて来たわけじゃないんです!侯爵様はお戻りになってください」と、言ったけれど「ちょうど休みたかったから、構わない」と降りてくれず、2人で屋敷に戻ることになった。 「でも、マギーから今度の遠征は大切なのだと聞きました」 「ああ、国にとっては大切だろうな」 「じゃあっ」 「だが、俺にとっては妻だって大切なんだ。 それに、1人で帰したとなれば全員から大目玉を食らう」 そう言われて、騎士団長であり侯爵でもある彼の身の振り方について思い知らされた。 僕なんかと違って彼は皆から見られている。 なのに、僕のせいでテオドール様の印象を下げてしまったんじゃないだろうか。 そもそも、嫁が男だなんて、知られたくなかった可能性がある。 僕の気持ちはさらにしおしおと萎んでしまった。 「もう二度とお屋敷から出ません。 本当に勝手に出てきてしまい、申し訳ございません」 「そんなことは言っていない…、が、 シエルを見られたくないというのは本当だな」 その一言に、僕は頭を殴られたかのようなショックを受けた。 やっぱり…、そうなんだ… テオドール様の「αの性と言う奴だ、許してくれ」という言葉は右から左へ抜け去った。

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