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29 ヒート
テオドール様が遠征に発たれて2日目の朝、なんだか体が怠く火照っていた。
あ…、ヒートだ。
僕はぼんやりとそう思い、「朝食の準備が出来ました」と呼びに来たセバスさんに声を掛けた。
「ヒートですか!?
それは…、今すぐにでも旦那様を呼びましょう」
セバスさんは慌てた様子でそう言った。
早馬を出せば、明日には戻られるだろうと。
「だ、だめです!!
大事な遠征だってお聞きしてます」
「しかし…」
「今までも1人で乗り切って来たんです。
今回だって大丈夫ですよ」
「シエル様…」
セバスさんはまだ迷っているようで、ちゃんと引き留めないとテオドール様を呼び戻してしまいそうだ。
「テオドール様に迷惑を掛けたくないんです。
お屋敷の皆さんにも。
なので、少なくとも5日間はαの方は、なるべく僕の部屋に近づかないようにして頂きたくて…
あとは、お勉強も…、ちょっとお休みしたいです…」
僕が申し訳なく思いながらも、そうお願いすると
「勿論です。
シエル様が少しでも過ごしやすくなるよう、一同、いっそう努めてお世話致します」
とセバスさんが背筋を伸ばした。
「いえ!本当に…、厄介な状態になるし
ヒートの状態を見られるのは恥ずかしいです」
僕がそう言うと、セバスさんは納得した様子で
「確かに、ヒートのシエル様を見たり触れたりした者は、旦那様に首を刎ねられてしまうかもしれませんね。
かしこまりました。
本当に助けが必要な場合は遠慮せずにベルを鳴らしてください」
セバスさんはそう言うと、部屋を出て行った。
なんとか人払いが出来たみたい。
布団に潜り込むけれど、体が熱くて、既に兆している屹立から吐き出したくて仕方がない。
後ろも下履きを汚すほど、濡れていた。
それでも、いつもは何度か吐き出せば、眠りについて、それを数回繰り返すことで乗り切っていた。
が…、
どうしてもテオドール様の香りが欲しい。
今すぐ触って、楽にしてほしい。
そんな欲求が頭から離れなくなる。
嵐の日、一度だけ入った彼の匂いが充満したあの部屋のベッドに潜り込みたい…
そんな欲求が渦巻くが、今の僕の体ではあそこまで歩くことは出来ないだろう。
僕は、前にお話したときに貸していただいたブランケットを引っ張り出した。
ずっと返そうと思って綺麗にたたんで仕舞っておいた。
すぐに返さなかったのは、わざとではない。
こっそり、寂しい時に嗅いだりなんてしてない。うん。
今はなりふり構っていられず、それをベッドに置き、顔を埋めた。
少し前のものなので、香りはだいぶ薄くなっているが、ヒートでαのフェロモンに過敏になっているので十分だった。
それでも足りなくはある。
テオドール様本人がそこにいてほしい…
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