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32 避けられてる
それから、2〜3日が経った真夜中、テオドール様は戻られたらしい。
というのも、その翌日に僕が目を覚ましたタイミングでセバスさんに教えられたからだ。
僕が自分の目で見て、ちゃんとお出迎えをして確認をしたわけではない。
そして、その日も朝早くから錬成に向かってしまったので、会えていない。
「やはり、王宮の騎士はお忙しいのですね」
僕が勉強が全然身に入らず、見かねたセバスさんが休憩のお茶を出してくれた。
僕はぼんやりと窓を眺めながらつぶやいた。
「そうですね…、元々忙しいお方でしたが、最近はより一層励んでいますね」
セバスさんも遠くを見るような目をしている。
「僕がいるせいで、ご自宅にいても休まらないんですかね。居づらい…、とか」
僕がそう言うと、セバスさんは驚いた顔をする。
「いやいや…、でも確かにシエルさんがいらっしゃるということは、旦那様にとっては大きい変化でしょうね。
お母様もお父様も子供のうちに亡くなられて…、マーガレット様は王宮に入られました。
お継母様もマーガレット様に付き添うように王宮に移られましたから…、誰かと暮らすのは久々なんですよ」
確かにそれは寂しいかもしれない。
でも、自分の領域に、間違えて嫁いできた男がいるというのは、孤独よりもお辛くないだろうか。
事実、テオドール様はずっと職場にいるし。
僕が出て行った方が、テオドール様はより健康的に過ごせるのではないだろうか。
だって…、あまりに寝てなさすぎる。
それで僕がそう言うと、セバスさんは焦ったように僕を止めた。
「シエル様が出て行かれたら、引き止められなかった私どもが八つ裂きにされます。
どうか…、思い直してくださいませ!!」
あまりに必死だったので、僕は「冗談です。行く宛もないですし」と撤回しておいた。
まあ、僕なんかと結婚して、あげく僕なんかに出て行かれたとなれば、あまりに体裁が悪いもんね。
ただでさえ迷惑をかけているのに、これ以上テオドール様の評価に傷をつけないようにしなきゃ。
そして、絶対に今回の遠征のことは謝らなきゃと、気合いを入れ直し、セバスさんとの勉強に精を出した。
早く彼の役に立てるようになりたい。
そんな僕の決意も虚しく、テオドール様に会うことはできなかった。
毎朝が早いし、夜もかなり遅くに帰っているみたいだ。
毎晩、彼をお出迎えしようと頑張るが、日付を超えてしまうと、僕が睡魔に勝てない。
僕の方が若いのに不甲斐ない…
かといって朝は起きられる気がしないので、毎晩、耐久戦をしていた。
ある日、自室に入るからダメなのでは?と思い、リビングで待つことにした。
が、どこにいても僕は眠れる体質のようで、僕はすっかりと眠りに落ちてしまった。
なのに、朝起きたらちゃんと自室にいた。
首まで布団がかけられていた。
夢で心地いい体温と香りに包まれ、揺られていた気がする。
もしかして、テオドール様が運んでくださったのかな?
避けられているけれど、大切にしてくれているのかも!?と、気分が上昇したが…
僕を呼びにきたセバスさんが
「旦那様から、自室で眠るようにと言伝がありました」と言われ、冷水を浴びせられた気持ちになった。
迷惑…、だっただろうな。
テオドール様は優しい方だから、僕を部屋まで運んでくださったけれど。
仕事でクタクタになっているのに、重いものを運ばせて仕事を増やすなんて…
Ωで華奢とはいえ、成人男性を運ぶのは大変だっただろう。
しかも、顔も見たくない奴だし。
何をしたら、僕は彼の役に立てるだろう…
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