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33 夜会なんて聞いてない

それから、テオドール様の帰りを待つのは気を使わせてしまう気がして、やめてしまった。 その時間がなくなると、本当に彼と会う時間がない。 それが悲しくて、僕は手紙を書いた。 ヒートで遠征の邪魔をしてしまったことと、リビングで寝てしまい運ばせてしまったことへの謝罪。 それと、許していただけるなら、また少しだけ夜にでも話す時間を作って欲しいこと、 余計なお世話かもしれないけれどちゃんと休んで欲しいことを書いた。 なるべくシンプルな、謝罪の意がちゃんと伝わるような白い封筒と便箋を選んだ。 お返事…、来るといいな。 直接渡すわけにもいかず、僕はそれをセバスさんに託した。 「おや…、シエル様から旦那様へお手紙ですか」 セバスさんが嬉しそうに手紙を受け取る。 「お忙しいのにこんなものを渡すのは、悪いかもしれませんが…」 「いやいや。奥様からのお手紙が嬉しくない方はいないでしょう」 「そう…、ですよね」 それが、本当に愛している奥様なら、の話ではあるだろう。 僕は形だけの奥様だもん。 夜に時間を作ってほしいなんて、わがまますぎるかな。 けれど、1週間経ってもお返事はなかった。 毎朝、セバスさんに「お返事は来てますか?」と訊いていたけれど、悲しそうに首を横に張るのを見て、訊く事はやめた。 テオドール様はお忙しい方なんだ。 手紙を受け取って貰えただけで喜ばなきゃいけないよね。 時間を消費するだけの日々を送る。 申し訳ないから、セバスさんとのお勉強会はキチンと受けているし、最近は夫人としてのマナーやダンスの勉強もしている。 使い所なんか来ないかもな… そんなふうに考えると虚しくなるので、何も考えずひたすらに詰め込む。 そんな日々を送っていると、またマギーが予告もなくフランツ邸にやってきた。 「ひさしぶりね、シエル。 なんか元気ない?」 「ひ、久しぶり。僕は元気だよ」 「そう?」 マギーが訝しげに僕を見る。 体調はかなりいいと思うけど。 「それより、夜会の服は決めた? シエルのことだから、遠慮して上手くオーダーできてないんじゃないかと思って、手伝いに来たの!」 「…夜会?」 なんのことか分からずにそう聞き返すと 「あら?お兄様から聞いてない? 殿下から招待状は出ているはずだけど」 と、マギーも首を傾げた。 夜会の話どころか、最近は全くテオドール様を目にしていない。 「もう!お兄様ったらぁ〜! 衣装は一朝一夕では出来上がらないのよ! お兄様を待っていたら、間に合わなくなるから、一緒に決めちゃいましょう! 腕のいい仕立て屋を呼んであるのよ」 マギーの話のスピードについていけず、混乱していると、あれよあれよと言う前に、仕立て屋が到着し、いろんな布を当てられていた。 「ん〜、シエルは髪も目も素敵な色をしているから、なんでも合うわね〜。 むしろお兄様の方が黒髪の茶目だから、お兄様に合わせた方がいいかしら?」 「え、えっと…」 「ブローチはお兄様のを翡翠にして、シエルのはべっ甲とかがいいかしら。地味かしらね」 「いえいえ!最近ではべっ甲はおしゃれで流行りですよ」 「そうなの?シエルにも似合いそう〜」 はしゃぐマギーと仕立て屋をなんとか止めて、衣装はテオドール様と決めることにさせてもらった。 でも…、この話をする時間すら僕にはない。 夜会の話はしないにしても、テオドール様の顔を見たい。

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