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35 突きつけられる
僕がささっと用を足すと、お手洗いの外にまだテオドール様がいた。
「部屋まで送ろう」
「え!?
もう足も動くので大丈夫です!」
「俺が心配なんだ。さ、おいで」
テオドール様が腕を広げて待つ。
お、おいで!?
そんな風に優しく『おいで』なんて言われたら、迷惑とか申し訳ないとかそう言う気持ちを忘れて飛び込んでしまうだろう…
僕は悪くない。
えい!と、僕はその腕に飛び込んだ。
結構な力で飛び込んだのに、屈強な彼は軽々と僕を抱き上げる。
「なかなか体重が戻らないな」
歩きながら、不意にそう言われて僕は「へ?」と首を傾げる。
「ヒートの時にかなり体重が落ちた。
それから少し経つのに、軽いままだ」
自分の体重なんて意識したことがなかったので、テオドール様に把握されていたことに驚く。
だって…、テオドール様に会えないことが寂しくてご飯なんて喉を通らないもん。
侯爵家の美味しい料理すらも。
「テオドール様が一緒にご飯を食べてくださったら戻るかもしれませんね」
僕は少し嫌味っぽく言った。
いくら白い結婚だからって、放置するなんて酷い…、よね。
「…、すまない。最近はその、遠征の後始末なんかもあって忙しくてだな…」
テオドール様が困ったように言う。
困らせてしまったことが途端に申し訳なくなり、慌てて謝った。
「いえ、僕のほうこそすみません。
冗談です。忘れてください。
テオドール様のお邪魔はしません」
「あ、ああ」
彼がホッとしたように言うのを聞いて、また心がジクジクと痛む。
御飯時に僕の顔なんて見たくないか。
「あの、僕のお手紙は読んでくださいましたか?」
沈黙を破るように僕が言うと、テオドール様は動揺したように
「あ、ああ。ありがとう。
忙しくてまだ読んではいなんだ」
と言った。
読んでないんだ…
忙しいのは分かってるんだけど、僕の優先度ってそんなに低いんだとショックを受けた。
「そうですか…
あ、それと、マギーから夜会の話を聞きました」
「マーガレットが!?」
「はい。衣装のアドバイスをされたのですが、テオドール様に確認を取らないと、と思いまして」
「…、すまないがシエルは参加させられない」
「え?」
「だから、夜会には俺1人で行く。
本当は行きたくないが、殿下からの招待だから断るわけにもいかない」
「…、そうですか」
そんなに僕は人前に出せないんだ…
悪いのは僕だ。
僕が妹のシェリルのかわりに来たのが悪い。
追い返されたりしなかっただけ、僕は感謝しなきゃいけない。
それはわかっていても、立派な夫人になるためにマナーや領地の勉強をしても、僕は外に出せない嫁なのだと突きつけられると悲しい。
それからテオドール様はそっと僕をベッドに下ろすと「早く寝るように」と優しく頭を撫でて部屋を後にした。
彼は優しい。
才能もあって、騎士団長としても立派だ。
僕はいつの日かちゃんと彼の隣に立てるのだろうか。
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