36 / 59

36 最適解に気付いたかも

夜会には行けないと、マギーに伝えないと… そう思って僕はセバスさんに「今日の午後は王宮に行きたいのですが」と提案した。 前回のように簡単に了承してもらえると思っていた僕は、セバスさんの表情が曇るのを見て驚いた。 「申し訳ございません。 旦那様より、シエル様の外出は控えるようにと申し使っております」 そんなに僕って外に出せない存在なのか… 前回の自分の行いを鑑みれば当たり前の事なのかもしれないけれど、ショックだった。 「僕って…、そんなに恥ずかしい嫁なんですかね」 こんな八つ当たりのような言葉を言うつもりはなかったのに、口から零れ落ちていた。 そんな僕に、セバスさんは慌てた様子で 「いえいえ!シエル様は立派です。 旦那さまにもお考えがあるのでしょうけれど 番になっていないシエル様を王都…、つまりはαの巣窟に連れて行きたくないのでしょう。 夜会や社交会もそうです」 と言い添えてくれた。 …、そうなのかな? 確かに結婚したのに番っていないと知られたら、勘ぐられてしまうのかもしれない。 ならば、番にしてしまえばいいのに。 僕はそれでも構わないと、初めに言った。 けれど…、テオドール様は律儀だから、番になったら愛でて大切にしなくてはいけないと思っているのかも。 最初から裏切った僕の事なんて、テキトーに利用すればいいのに。 「なにかほしいものがありましたら、いくらでもお申し付けください。 使いの者を出してもいいですし、商人だって呼びつけます」 「いえ…、マギーに会いたかっただけなので」 「マギー様に?」 「はい。昨日、色々と助言を頂いたのに、それを活かせそうにもなかったので」 「…、そうでございましたか」 フランツ邸に仕立て屋を呼んでいたので、セバスさんもなんとなく要件を察したのだろう。 悲しそうな顔をしている。 「どうか…、旦那様を嫌わないでください。 本当に何かお考えがあるのです」 そう言って彼は「午後はお休みにしましょう」とお茶を手配してくれた。 むしろ、嫌いになれたらどれほどいいだろう。 無関心になれたらいいのに… それから数日…、最近は気持ちが沈んでしまって、なんとか勉強はしているけれども、自分でも体力が落ちているのを実感する。 セバスさんはしきりに「お休みください」と言ってくれるが、何かしていないと不安で仕方がない。 次のヒートの時期は過ぎていたが、くる気配がない。止まってしまったのかな… そしてまた、マギーが屋敷に突撃してきた。 そう、文字通り突撃… ドアがバーンっと開け放たれた。 「シエルは参加しないってどういうこと!?」 「マギー…、久しぶり。 1ヵ月ぶりくらいかな」 「そんなことより、夜会に参加しないって何? …、もしかして体調が悪いの?」 「ああ…、まあそんなところかも」 僕は適当に誤魔化した。 本当の事なんて言えるわけがない。 「それは大変だわ!お医者様を呼びましょう」 「医者は呼ばなくて大丈夫だよ。 体が悪いわけじゃないから」 「シエルがそう言うなら…」 マギーが不安そうにそう言うので、僕はほほ笑んで頷いた。 「話を戻すけれど、既婚者が1人で夜会に参加するなんて、浮気みたいなものよ? シエルはそれでいいの?」 そういった集いに参加したことがなかったから、そうなるのかと驚いた。 浮気と聞いて、カッと頭に血が上るが、次の瞬間には怒りはシュルシュルと萎んだ。 浮気も何も、最初から「ふさわしい相手が見つかったら離縁して構わない」と僕から言ったじゃないか。 テオドール様が本命を見つけて、僕と離婚し、僕は子爵家には帰らずに田舎で農民にでもなる…、お互いにとって良い選択かもしれない。 テオドール様が見初めた相手なら、夜会でも王都でも、好きに連れていけるだろうし。

ともだちにシェアしよう!