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37 夜会の後

「浮気だろうと僕は気にしないよ。 テオドール様の好きなようにすればいい」 僕がそう言うと、マギーは顔を真っ赤にして怒る。 「私はお兄様の妹だけど、シエルの友人でもあるのよ? 友人が裏切られて許せるわけがないわ!」 「ありがとう。でも、先に裏切ったのは僕なんだ。 だから、このくらいの事は平気だよ」 こんな風に自分のために怒ってくれる人なんていなかったから、マギーの気持ちは素直に嬉しい。 「そう…(裏切りって…、遠い昔の騎士団に入るっていう話かしら?でもそんな昔の事を今も?)」   彼女の怒りっぷりから、なかなか熱が冷めないだろうと思っていたけれど、案外すんなりと引いてくれた。 「でも、本当にシエルったら体調が悪そうよ?無理しないで。 嫌なことや言いたいことは、全部お兄様に言って。 そのための結婚なんだから」   彼女は去り際にそう言う。 「うん。ありがとう」 手を振って彼女を見送る。 本当は外まで送りたかったけれど、痩せてしまった僕をかなり心配して「歩かせる方が怖いわ」と止められてしまった。 言いたいことか… テオドール様だから言えないんだよね。 でも、確かにこのままは良くないよね。 僕にも、テオドール様にも。 彼の名前に傷がつく前に、離婚するべきなのかもしれないな。 でも、ちゃんと話をするにしても、なかなか会えないし、外出はできないし、手紙も読んでもらえないなんて… どうしたらいいんだろう。 それから数日が経って、僕は眠る前に本を読んでいた。 ほんは好きなんだけれど、夜に読むとどうしても眠くなってしまう。 うつらうつらしていると、テオドール様が帰宅した気配を感じた。 まだ10時にもなっていない。 なんだろう? でも、お話しするチャンスかも! 僕は起き上がり、玄関に向かう。 テオドール様は豪華な衣装を着て、少し足元がふらついた様子で自室に向かうところだった。 もしかしたら、今日が夜会だったのかも。 随分と酔っているようだけれど… 「テ、テオドール様?」 「…シエルか?」 テオドール様が驚いた顔で僕を見た。 前に見た時も夜だったな…、どのくらい前の話だっけ?と僕は苦い気持ちになった。 同じ屋敷に住んで、結婚までしてるのに。 「夜会だったんですか?」 「あ…、ああ。 殿下に随分と飲まされた」 「お水お持ちしますか?」 「…、いいのか?」 「はい!リビングのソファでお待ちください」 テオドール様が少し悩んだ後に頷いたので、僕は跳ねるようにキッチンに向かった。 お話しできるかもしれない。 彼は酔っているから、いつもよりもフランクに話してくれるかもしれない。 急いでグラスを持って戻ると、普段は見ないようなだらしない様子でソファにもたれかかって座っていた。 本当にたくさんお酒を飲んだみたい。 僕は「お待たせしました」と、水を渡して隣に座った。 「ありがとう」 彼はグラスを受け取った後、僕に視線を移し、目を見張った。 え、何か変だったかな?と首を傾げる。 「シエル…、さらに痩せたか?」 「…、自分では分かりませんけれど…、そう見えますか?」 「ああ。なぜだ? 食事が口に合わないか?」 普段、テオドール様の方が忙しすぎて、寝食の暇もないだろうに、僕の心配をしてくださるなんて… 離婚を口に出すのか惜しくなってしまう。

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