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40 断じて浮気ではない

「具合が悪くなったご令嬢がいて、介抱したんだ。 それがたまたまΩだっただけなんだ。 シエルも噂に聞いていると思うが、俺は異性に好ましいと思われない風体をしているから、安心してほしい」 湯汲みを終わらせたテオドール様が、僕を胸に抱きながら、疑惑の真相を教えてくれていた。 とりあえず、浮気ではなかったようだけれど、訂正しなくてはならない点がある。 「テオドール様は、十分好ましい風体ですよ。 確かにお仕事中とかの真顔の時はちょっと威圧感があって怖いですけど…、 今こうやってお話ししている時のテオドール様は、かなりモテると思います」 テオドール様は驚いた顔で僕を凝視した後、「そんな風に言ってくれるのはシエルだけだ」とまた笑ってくれた。 だから、その顔が他の人を寄せ付けそうで不安だって言ってるのに。 「でも、良かった」と、彼がため息とともに溢した。 「…、モテることがですか?」 ムッとして僕が言うと、テオドール様は慌てて体を起こした。 「まさか、そんなわけがないだろう。 シエルが好ましいと思う容姿で良かったと思ったんだ」 起こした体が僕の上に覆いかぶさってくる。 重そう、と思ったが、彼が力を入れているのか重さはほとんど感じなかった。 僕より少し硬い髪が僕の頬に触れる。 今までこんなに触れ合うことが無かったので、僕の心臓は大暴れしている。 貧血気味だったので、結構胸が苦しいし、頭がぼーっとしてしまう。 「すごい音だな」 「あ、当たり前です!僕は家族とすら、こんなに触れ合ったことがないんですから!」 「そうか。今後も、俺以外に触れさせるな」 「…、僕に近づく人なんかいませんよ。 男のΩだし、こんな見た目だし」 「その逆だ。男なのに、そんなに可愛いのがおかしいんだ。 騎士たちが色めき立っていた。 俺のエスコートなしに王宮には行くな」 それ、たぶんお世辞では…? 騎士団長様の嫁がどんなに醜悪でも、本人の前では褒めるしかないだろう。 「だから、シエルの体調が良くなって、ヒートが来たら番わせてほしい。 今の状態のシエルを外に出すことが恐ろしいんだ。 番になっていないと、Ωのシエルは他のαに搔っ攫われてしまうかもしれない」 絶対にそんなことはあり得ないけれど、それでテオドール様が安心するなら僕の項なんていくらでも差出す。 「よ、よろしくお願いします」 「…、まずは医者を呼ばないとな」 「…、はい」 必要ない、と言いたかったけれど、もしも本当に僕が不能になっていたら、番にすらなれないので、僕は渋々頷いた。 あれよあれよという間に、お屋敷にお抱えのお医者様がいらした。 あれこれ診察され、その医者はため息をついた。    「侯爵様…、医者じゃなくてもご夫人が普通の栄養状態じゃないことはわかりますかな? まずはしっかり食べて、よく寝ること。 もし、今の状態でヒートが来ていたら、ご夫人は命を落としていたやもしれません」 「なんだと!?」 医者の言葉に僕は驚いたが、それ以上にテオドール様が驚いていた。 医者が帰った後もひたすら「すまなかった」と僕に謝り続けていた。 いい年して自分の健康管理ができなかった自分のせいなのに… でも、一応は不能ではないようで安心した。 とにかく健康にならなきゃ。

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