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41 お手柔らかにお願いします
「そういえば、お手紙、読んでくださいました?」
医者が帰った後、テオドール様もお仕事に向かうかっと思ったら、「せっかく殿下から休みをもらったので仕事には行かない」とおっしゃったので、共にお茶をしている。
最近のモヤモが晴れた僕は、食欲も復活したのか、ケーキを2つ平らげていた。
「…、すまない。実はまだ…」
内心ショックを受けるが、僕を好きだと言うのなら、忙しかっただけなのかな。
「そうですか」
「実は、離縁の申込書でも入っているのではないかと思って、怖くて開封できなかった」
怖かった?
こんな泣く子も黙る騎士団長の大男が?
僕は驚いた顔で彼を見た。
それに焦ったのか
「し、しかたがないだろう!
真っ白な封筒だったから、そう言う…、固い書類でも入っているかと思ったんだ!」
と、急いで弁解した。
誠意のための白がそんな誤解を生むなんて。
「そんな大事な書類をセバスさん越しに手渡ししたりしませんよ!
諸々の謝罪文と…、あと、忙しくなくなったら僕とまたお話しする時間を作ってほしいって書いたんです!」
そう言うと彼は深く息をついて机に突っ伏した。
「勘違いで良かった…
実は俺は、毎日、休日も返上で深夜まで働くほど忙しいわけではなかったんだ」
衝撃の告白に僕は言葉を失った。
テオドール様が過労死するかも、という心配は取り除かれたが、
それはつまり、僕が避けられていたということだ。
「シエルに寂しい思いをさせていたんだな。
俺も、シエルには疎まれていると思っていた。
だから好意は隠そうとしたんだが…、近くにいると、どうしても隠せる自信がなかった。
そして、ひたすら避けると言う結論に至った」
「そう…、なんですか?」
今まで考えもしなかった理由に僕の脳はついていけなかった。
それって、まるで本当に僕のことを愛しているみたいじゃないか。
いや、テオドール様の言葉を信じていないわけではないんだけれど。
「じゃあ、これからは隠さないで僕に接してくれますか?」
僕が意を決して言うと、彼は大きな手で自分の顔を覆っていた。
「あ、あれ…?だめですか?」
あまり好ましくない反応に僕は不安になって訊いた。
「いや!わかった。
これからは隠さずにシエルに接する。
が…、俺も男であることは察してほしい」
「男?
テオドール様は男ですよ?」
「あ、ああ、そう。そうなんだが…」
なにやら歯切れが悪いテオドール様。
「テオドール様になら何されても僕は怒りませんからね!
あ!でも、避けるのは嫌です」
「わ、わかった。
…、それでは、これからは誠心誠意、シエルに愛を伝えることにする」
テオドール様に手を取られ、真剣な目でそうつげられる。
あ、愛を伝える!?
確かにそうして欲しいとあ言ったけれど、全くそう言うことに耐性のない僕が耐えられるだろうか!?
僕はとんでもないお願いをしてしまったのかも、と少し後悔した。
ドッドッドッドッと、騒ぎ立てる鼓動を感じながら、「お、お手柔らかにお願いします」と絞り出した。
彼は僕の手を口元に近づけると、いつかのように唇を落とした。
「ピャ」と言う奇声が僕の喉から出る。
これは何回されても慣れる気がしない。
っていうか、“お手柔らかに”って僕は言ったのに!!
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