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43 悪夢を見る
僕はいそいそとお手紙を自室の机の引き出しの中に仕舞うと、いつも勉強をしている書物庫に向かう。
「シエル様、顔色が悪いですよ?
やはりご体調が優れないのでは…?」
セバスさんに虚を突かれ、僕は「そんなことないです!」と慌てて手を振った。
「そうでございますか?
旦那様もシエル様の頑張りは認めてらっしゃいます。
そんなに急がなくても、ゆっくり覚えていただければ大丈夫ですよ?」
なおも心配そうなセバスさんに、僕は「じゃあ…、今日はお休みしてもいいですか?」と言った。
どうしても、あの女性の顔がちらついてしまう。
とても可愛らしい、華奢な女性だった。
僕と同性代だとは思うけれど、少女と言っても過言ではないくらいに可憐な人…
僕と彼女を並べたら、誰もが同じ方を選ぶだろう。
テオドール様だって、彼女が自分に気があると知ったら…、番う前の僕なんか止めて彼女を伴侶とするかもしれない。
そう思うたびに胸に刺すような痛みが走る。
「分かりました。
本当にご体調が悪そうですね…、医者を呼びましょうか?」
「いえ!大丈夫です。ただの…」
ただの恋煩い…、とはさすがに言えず
「ただの、寝不足です!」
と苦しい言い訳になった。
「ああ…、昨日も旦那様とお話されていましたね」
「ええ、はい。すみません…」
「いえいえ!どうぞゆっくりお休みください」
セバスさんはそう言ってほほ笑むと、僕を自室まで送ってくれた。
確かにテオドール様は、最近お茶をした後に「部屋まで送る」と言って僕の自室に来た後も、部屋の中でくつろいでいかれる。
最近読んだ本の話やマギーの話、たまに流行りのボードゲームをすることもあるけれど、どんなに遅くても23時には帰る。
それが寂しくもあるのだけれど、翌日も早朝から家を出る人に深夜まで付き合えとは言えない。
なんなら、僕の布団で枕を2つ並べればいいのにと思うけれど、その案は毎度、即行で却下される。
僕がテオドール様と夜をともにしたのなんて、嵐の日か(これは僕の記憶がないのでノーカン)、夜会の日だ。
…、夜会。
僕は机をちらっと見る。
渡すのは嫌だけれど、僕の部屋で保管するのも嫌なんだよな。
もう一度手紙を取り出して眺める。
美しいレースの模様が描かれた可愛らしい封筒。
僕が彼に出した手紙とは比べ物にもならない。
字だって教養を感じる綺麗な字だった。
僕はそれを机に上げ、テオドール様が帰られたら渡そうと決心して、ベッドに横になる。
気が張っていたのか、僕はすっかり眠りに落ち、長めの昼寝をしたのだった。
昼寝なのにしっかりと悪夢を見た。
昼間の可愛らしい女性と腕を組み、僕に別れを告げる夢。
僕は去っていく2人を追いかけたかった。
泣いて縋って、「2番目でもいいからそばにおいて欲しい」と言うが、あっけなく振り解かれ、
「男のΩなんて愛人でも要らない」と言い捨てられた。
そこでバッと跳ね起きた。
汗をびっしょりかいていた。
まだ夕食どきには早い時間だから、先に汗を流してしまおうか。
現実のテオドール様はあんな酷いことを言わないことは知っている。
でも、口にはしなくても、本心はどうなのだろう。
せっかく、彼の好意を信じようと思ったのに、ちょっとしたことで直ぐに不信になる自分に喝を入れるべく、僕はシャワーを浴びた。
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