45 / 59
45 ピクニックとお返事
あのご令嬢に手紙を渡されてから、3日後。
テオドール様と一緒に庭でランチを広げていた。
「庭など眺めるだけのものだと思っていたが…、手入れをしていて良かった」
「?…、確かにお庭、とっても素敵ですね」
「ああ。シエルをいっそう引き立ててくれる。
庭師には褒美をやらなくてはな」
「イリスさんもカイアさんも、真面目で一生懸命ですもんね!」
僕は庭師の2人を思い浮かべる。
僕よりうんと年上のお2人は、僕が休憩してる時もせっせと働いていて、たまに声をかけてくださる。
とても気の良い方々だ。
けど、庭が僕を引き立てるってなんだろう?
「…、シエルは庭師たちとも仲がいいのか?」
テオドール様が意外そうな顔をしている。
休憩してばかりだとバレてしまった…
「お勉強の合間によく中庭で休憩するので、たまにお話したりするんです。
すみません、休憩ばかりで」
「いや、それは構わない。
が、シエルが私を差し置いて使用人たちと仲良くしているのは少々妬けるな」
一瞬、ぽかんとしたが、意味を理解したら顔が熱くなる。
妬けるって…
「そ、そんなに沢山は話してません!
お2人ともお仕事中ですから。
僕が1番仲良くしてるのはテオドール様です」
「ああ、そうでないと困る。
さあ、ちょうど紅茶が蒸らし終わったから、早速いただこう」
テオドール様が紅茶を注いでくれた。
僕は顔の熱が引くまで、味がわからなかったけれど。
でも、管理された美しい庭で、日光を浴びながらの食事は美味しかった。
午後、「俺も休みなのだから、シエルも今日は休め」と言われたので、本を読んでいた。
テオドール様から借りた、貴重な本。
読み終わったし、ちょうどテオドール様がいらっしゃるから書斎に返しに行こうかな。
そう思い立って、僕は本を抱えて、いまだに滅多に行かない彼の部屋をノックした。
部屋に入るとテオドール様は何か書いている最中だった。
「シエル?どうかしたか?」
「あ、えっと、本を返しにきました」
「ああ。読み終わったのか。
シエルは本当に速読家だな。
次の本も借りていくか?」
「はい!」
僕は嬉々として彼の隣に立つ。
本を渡して、彼が本棚から次の本を探している最中、ふと目をやった机の上から目が離せなくなる。
そこには、ご令嬢からの手紙が封を切られて置いてあった。
僕の手紙は1ヶ月以上、読んでいただけなかったのに…
そして、机にはその返事を書いている最中の便箋が書いてある。
彼女への返事を書いていたんだ…
じわっと心に暗い気持ちが立ち込める。
僕は返事、貰ってないのに。
「これなんかどうだ?
シエルも気にいると思うが。
…、シエル?」
「あっ!は、はい!」
テオドール様に話しかけられていることに気づかなかった。
僕は慌てて、視線を彼に移す。
「隣国の歴史の本だ。挿絵が美しいから楽しめると思う」
真剣に僕に貸す本を選んでくださったのだろう。
その気持ちが嬉しい反面、彼は優しいのであのご令嬢にも心を許してしまうのでは、と不安になった。
「あ、ありがとうございます」
「シエル?気に入らないか?」
「え!?いえ!嬉しいです!
隣国なんて行ったことも見たこともないので」
「そうか。急いで返そうとしなくて良いからな」
「はい!」
僕はお辞儀をして、彼の部屋を出た。
まだ挨拶文しか書いてなかったけれど、一体、どう返事するんだろう。
ともだちにシェアしよう!

