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49 お茶会のお誘い

眠りから醒めるとテオドール様が僕を眺めながら頭を撫でていた。 「あ…、おはようございます…」 声がガサガサになっている。 「声が枯れてしまっているな。 何か飲むか?」 それは少し申し訳ないので「いえ」と断りかけると 「いや、4日間もほとんど何も食べずに交わっていたんだ。なにか持って来させよう」 と彼が起き上がった。 4日間!? 番になったところまでの記憶は薄らある。 そこに至るまでの経緯を思い出して、僕は恥ずかしくなってしまった。 どこもかしこも舐められた気がする… 恥ずかしい… おそらく、使用人に指示をしてきたであろうテオドール様が戻ってきた。 「シエル?またフェロモンを出しているのか?」 まるで僕が淫乱みたいな言い方をされて、僕は慌てて否定した。 「だ、出してないです! その…、色々思い出してしまったから、そのせいかも…、なんて」 僕がそう言うと、彼は頭を抱えた。 「そういうのを誘っているというんだが… しかし、シエルの体力が心配だからな。 今の所は見逃そう」 「は、はい!」 まさか、また何回戦目か分からない性行が始まろうとしていたなんて… テオドール様のスイッチがよく分からないな。 そして僕は、やたらニコニコしている使用人さんたちが運んできた食事を頂いた。 翌日から、テオ様は通常の勤務に戻られた。 僕は毎日、着替えの時や湯浴びの時に、鏡に映る番の跡を見ては幸福な気持ちになる。 会計のお勉強もなんとか理解できるようになってきたし、番になってからは、あまりに順調すぎた。 そんなある日、セバスさんから「奥様宛のお手紙が届いております」と伝えられた。 フランツ邸にきてから、僕宛のお手紙なんてほとんど来たことがない。 それを受け取り、封を切る。 どこかのご令嬢からのお茶会のお誘いだった。 お茶会なんて…、開催したことはもちろん、行った事もない。 一体どうして僕なんかに…? 僕の友達なんて、マギーくらいしかいないのに、顔も名前も知らないご令嬢のお茶会に何しに行けばいいんだ!? 公爵家に嫁いだ弱小子爵の男Ωだと、好奇の目で見られ、根掘り葉掘り聞かれてしまうのでは? 僕の立ち回り次第では、テオ様に迷惑をかけてしまう。 悩んだ末、僕は彼に聞くことにした。 夕食の時、「お茶会のお誘いがあって…」と口を開いた。 「お茶会?…、なるほど。 シエルに友達ができることは良いことだ。 俺には話しづらいこともあるだろうし。 ところで、どこのご令嬢からなんだ?」 意外とテオ様は乗り気のようで驚く。 てっきり、夜会のように二つ返事で却下されると思ったのに。 「えっと…、ルノワール伯爵ご令嬢です」 「ルノワール…?」 名前を言った途端、彼の表情が曇る。 評判のいいお家ではないのだろうか? 「えっと…、ダメですか?」 「いや…、気をつけて行ってくるといい。 なにか手土産を見繕っておこう。 …、もし、1人が嫌なら付き添うが」 誘われた日時は、平日のお昼だった。 彼に付き添ってもらったら、お仕事を休ませてしまう。 1人は心細いけれど、たかがお茶会で彼に迷惑をかけるのは嫌だ。 「ありがとうございます。 ですが、1人で頑張ってみます」 「そうか…、何かあったらすぐに帰ってこい」 「はい」 テオ様が心配している。 こんなふうになってしまう”ルノワール伯爵家“っていったい…? 明日から、お茶会のマナーも勉強しよう。

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