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51 ロイゼについて
客間は比較的こじんまりとしたスペースで、僕は勧められるままにソファに座った。
ソファ同士が近いため、お兄様との距離も少々近くなってしまう。
「申し遅れたね。私はルノワール伯爵家の次男のロイゼ」
「ロ、ロイゼ様」
「うん。好きに呼んでくれて構わない」
「お聞きしたかったのですが、僕とマリア様が恋敵というのは…」
僕は先ほどの発言で気になった箇所を聞いた。
僕なんかが恋敵なんて、そんな風になることあるんだ…
「ああ。私とマリアはとても仲が良くてね…、よく恋の相談を受けているんだ。
今は、フランツ侯爵に思いを寄せているそうだから、夫人のシエルくんは恋敵だろう?」
「そう…、ですか」
やはり、マリアさんはテオ様の事が…
テオ様は、彼女の事をどう思っているんだろうか…
「でも、シエル君たちは番になったようだね。
マリアも惨敗のようだし、負け戦だね」
「マ、マリア様はとても素敵な淑女だと思います!
本当なら、10人中10人が僕よりもマリア様を好きになると思います」
「10人中10人か…」
「あ、100人いたら100人が選びます」
「ふふ、分母の話じゃないよ」
「すみません。でも、僕はたまたま運が良かったというか、タイミングが良かっただけなんです」
「うん、そうなのかもね。
マリアだって、フランツ侯爵を怖がる令嬢たちの一員だったからね。
我が妹ながら、掌を返す速さに驚いたけど、良くない偏見のせいで出遅れたのは彼女自身の問題だ」
「そう…、だったんですか」
ロイゼ様は僕を励ましてくれているんだろうか?
いまいち、真意が読めない。
「ふふ、怪訝な顔をしているね。
シエル君は、私が結婚しない理由、聞いたことがある?」
急に空気が変わり、僕は思わず身構える。
ロイゼ様が結婚しない理由…?
「いえ、存じ上げません」
「そうだよね。知っていたらのこのこ着いて来ないか。
私の噂を教えないなんて、フランツ侯爵は本当にいい男だね」
急に立ち上がった彼が、僕を押し倒した。
あまりに無駄のない動きだったので、一切抵抗が出来なかった。
「え?」
「私はね、ダンショクカなんだよ」
怪し笑みで僕を見下ろすロイゼ様。
ダンショクカ…、男色家!?
つまり、対象が男性ってこと!?
「え、えっと、つまりは男性がお好きなんですか?」
「その通り。本当はフランツ侯爵のような屈強な男が好みなんだが…、男のα同士というのはどうも相性が悪くてね。
そもそも、Ωじゃないと子が成せないから、家の者が納得しないんだ」
「はい?」
それと、僕が押し倒されているこの状況がどう繋がるんだろう?
「君は察しが悪いんだね。そこが扱いやすいのかな?
私はずっと、男のΩを探しているんだよ」
「で、でも、僕は屈強な男じゃないです」
「そうだね。好みではない。
だが、女よりは断然マシだ。
そりゃ平民や穢多非人には男Ωなんて沢山いるだろうけれど、うちは祖父が1代で築き上げた伯爵家だから、平民を娶るなんて言語道断なんだ。
子爵家だとしても、貴族なら十分だよ」
恍惚とした表情で語るロイゼ様に、僕は恐ろしくなる。
まるで、Ωの男なら誰でもいいと言っているようなものだ。
そんな人を好きになれるわけがない。
「でも、僕はもう番がいます。
だから、ロイゼ様の期待には応えられな…」
「シエル君。我がルノワール家が何で伯爵の爵位を得たか、ご存じかな?」
お断りを遮られて、僕は面喰った。
「え、えっと、勉強不足ですみません。
存じ上げません」
僕がそう言うと、彼は嬉しそうに顔を歪めた。
「医学だよ。それも、バースに特化している。
今は、番の解消に関して研究しているんだ。
近いうちにそのサンプルだって出来上がる。
君と侯爵様の番契約だって、解消できるかもしれない」
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