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53 一方的な思い

「なんで…」 僕が固まっていると、追いついたロイゼが僕の肩に手を回す。 「なぜ侯爵がここにいるかは分からないけど、おおかた、妹が番解消薬の話でもしたんじゃないかな?」 「そんな…」 本当に彼が僕を捨てるなんて… 僕は膝に力が入らなくなり、その場に頽れそうになる。 「おっと。素敵なお召し物が台無しになってしまうよ」 と、ロイゼが僕を支える。 どうしたら良いんだろう。 「ふふ。フランツ邸に君の居場所なんて無いんじゃないかい? うちでよければ場所を貸すよ。 解消薬ができたら、真っ先にシエルくんにあげる」 僕はぼんやりと彼の顔を見る。 番の解消なんかしたく無い。 でも、僕はテオ様の元には帰れない。 僕は弱く頷き、彼が促すままに屋敷に逆戻りした。 こんなに早く…、番を…、テオ様を失うなんて思わなかった。 来客用のお部屋に連れてこられた。 「ここで好きに過ごして構わないよ」 僕がその部屋の中で立ち尽くしていると、そっと抱きしめられた。 「シエル君は、ただの守られるだけのΩだと思っていたけれど、なかなか男らしい面もあるんだね。 惚れ直しちゃったよ。 ますます、君が欲しくなっちゃった」 首にかかる息に鳥肌が立つ。 僕はなんでテオ様ではなく、この人に抱きしめられているんだろう。 「ああ…、番じゃないから拒否反応が出てしまっているんだね。 安心して。大人しくしてくれれば、今は手を出さないよ。 私は鬼畜では無いから、嫌がる子を無理やり抱くようなことはしない」 しばらくそうやって抱きしめられていたが、不意にロイゼが体を離した。 「そうとなったらオチオチしていられないな。 すぐに薬の開発をしてくるね! 大人しく待っているんだよ?」 そう言って頭を撫でると、客室を出ていった。 頭を撫でる感触が…、テオ様と全然違う。 あの人はテオ様じゃない。 それがどうしても苦しい。 解消薬を使ったら、この気持ちもなくなるんだろうか? 苦しくなくなる? 僕は頭が痛くなってきて、ベッドに横たわる。 当たり前だけれど、テオ様の匂いはしない。 ぐるぐるする思考に蓋をするように目を閉じるといつの間にか眠りについていた。 不快な温もりを感じて目を覚ます。 「はぁ…、シエルくん…」 後ろから抱きしめられた状態でお尻に固いものが押しつけられていた。 ロイゼだ… 耳にかかる湿った息も嫌な気持ちになる。 手を出さないって言ってたのに… 「やっ…、やめてください!!」 僕が体をバタバタさせて抵抗すると、彼はふふっと息を漏らして、さらに体を密着させた。 「嫌がることはしたくなんだけど、シエルくんは私の加虐心を煽るんだ。 抵抗されると俄然燃えちゃうな」 何言ってるの、この人!? たとえ、テオ様に捨てられてもこんな人のところにいるのは嫌だ。 「やだ!!テオ様!助けてっ」 僕が咄嗟に番の名前を呼ぶと、ロイゼは舌打ちをする。 「抵抗されるのは良いけれど、侯爵の名前を呼ぶのは頂けないな」 グッとさらに腰を押しつけられて、僕は全身に鳥肌が立つ。 「服を脱がせたら、簡単にシエル君のここを暴くことが出来ちゃうんだよ? 考えて発言しようね」 「うぅ…」 僕は泣きながらその時間を耐えた。 数分して、彼が「うっ」と声を漏らし、達したようだった。 確かに手を出されてはいないけれど、こんなことを毎晩されると考えたら、気持ちが暗くなった。 こんなことなら、ここを飛び出して、放浪者にでもなったほうがマシだ。

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