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57 甘えたで我儘(テオドール視点)
お腹を鳴らすシエルを連れて食堂に向かった。
抱きかかえて座って、料理も手ずから食べさせてやりたいくらいだったが、シエルが断固として拒否をするので諦めた。
2週間も会えなかったのだからそれくらい許してほしいものだが、「それなら食べない」と言われるのも困るので諦めた。
それくらい、シエルは軽くなってしまっていた。
そして、シエルは俺が少し引くくらいには食べた。
今まで、こんなに食欲旺盛な彼を見たことがない。
そして、たらふく食べるとポヤポヤしていた。
何を言っても「はぁい」と間延びした返事が返ってくる。
チャンスだと思い、シエルの方へ行くと、自ら俺の首に手を回し、体を預けてきた。
眠い時とヒートの時のシエルは、甘えたで少し我儘になる。
普段の謙虚で我慢強いシエルも良いが、こういうときのシエルはギャップも相まって堪らない。
「あんなに一気に食べたら眠くなるだろう。
早く寝室に戻ろう」
俺がそう言いながら食堂を出ると、シエルは足まで俺に絡みつかせて
「眠い時は、テオ様がいっぱい構ってくれるからいいもん」
とさらにしがみ付いてきた。
俺があと5歳若かったら今すぐ食っていただろう。
ふいに、シエルの香りが強く香った。
煽情的な惹きつけて止まない、花のような香りだ。
「ヒートか?」
「ん。そろそろだと思います。
ロイゼ様のところで起きなくて本当に良かった」
聞き捨てならない単語が聞こえて、思わず顔をしかめる。
本当に…、間に合ってよかった。
俺にしがみ付いて離さないシエルをベッドに組み敷く。
口づけを落とすと、返すように舌を差し入れてきた。
こんなこと、どこで覚えてきたのか…
積極的なのは嬉しいが、少々不安にもなる。
「あの男とは何かしたのか?」
俺がそう聞くと、シエルはとろんとした顔で
「ロイゼ様に触られると、鳥肌が立ったり、えずいたりして、手は出されませんでした…、けど」
と言いながら少し歯切れが悪くなる。
「けど?」
「寝ている間にお尻にその…、服越しですけど!
擦りつけられたりはしました。
暴れたり、テオ様の名前を呼んだりしたら、今すぐ突っ込むって」
「…、俺のシエルになんてことを…」
手を出されていないのは不幸中の幸いだが、助け出した時にやたらあいつの匂いがついていると思ったら…、これが原因か。
「脅されて、さぞ恐ろしかっただろう」と俺が言うと
「はい。なので沢山上書きしてください」
と殺し文句を言われ、俺はほぼラットのような状態でシエルを抱きつぶした。
丸一日まぐわった後、いったん熱が引いたので水分を取りに行こうと起き上がると、シエルが絡みついてきた。
「やだ。ずっといるって言った」
少し舌足らずな声でそう言うが、心配になるくらいには掠れていた。
「飲み物を取りに行くだけだ」
「やだ」
「ふっ…、シエルも何か飲まないと、可愛い声が台無しだぞ」
そう言うと、渋々手が離れた。
そうして、水分を手に戻ってくると、彼は布団に潜り込んで不貞腐れていた。
声を掛けたり、揺すったりしても、なかなか出てこない。
「シエルの可愛い顔を見せてくれないか?」
そう言うと、少しムッとした顔がひょこっと出てくる。
そんな様子も愛らしい。
不貞腐れたシエルに「可愛い」はなかなか有効な手段だ。
口元にグラスを近づけても飲もうとしない。
困り果てていると「口でくれるなら飲む」と、口づけだけでは済まなくなるようなセリフを吐かれた。
が、さすがに喉が心配なので、水を口に含み、シエルの口へ運ぶ。
ごくりと、喉が動いたが、シエルが離そうとしない。
俺も少々盛り上がってしまい、水分補給もそこそこに、互いを貪り合ってしまった。
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