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真相

「変わらないな、ここは」  居間の電気を点けると、羽琉が懐かしそうに部屋を眺めている。そんな羽琉を真里也はこっそりと見ていた。  羽琉が俺の家にいる……。  手を伸ばせば触れられる距離に羽琉がいる。真里也は思わず頬をつねってみた。  痛い……。夢じゃない、羽琉が俺の家にいるんだ。  子どもじみたことをしたと、かぶりを振って意識を修正したけれど、真里也は泣きそうなくらい、嬉しかった。  ひとりっきりで寂しかった家に羽琉がいる。それだけで沈んでいた家の空気も心も、たんぽぽの綿毛のようにふわふわ浮かんでいた。  四年以上、面と向かって会っていなかったせいか、気まずさが拭えなくて、逃げるように台所へ移動した。お茶を入れるための湯を沸かし、押し入れから座布団を出して羽琉が座る場所を用意した。  湯呑みを出しながら羽琉は今日、ここへ何をしにきたのだろうと考えてみた。会えて嬉しい反面、さっきから頭の中ではずっと同じ疑問を繰り返している。  俺への怒りを訴えにきたんじゃないなら、他に用事なんてあるのか?  何を話せばいいか分からず、居間に視線を移すと仏壇が目に入り、そうかと、納得した。  羽琉が探して買い取った仏像のことを、博に報告しにきたのかもしれない。  そんなことしなくてもいいのに、羽琉が幸せならじいちゃんも嬉しいのにと、声に出さず思っていたら、「線香あげていいか」と、聞かれたので、もちろんと返事をした。  仏壇の前で瞳を閉じて、手を合わせる厳かな横顔を盗み見ながら、真里也は仏像のお礼を言うために瞳が開かれるのを待った。 「羽琉……じいちゃんの仏像を取り戻してくれて、ありがとう。その、大変だった……だろ。探して、しかも買い取るなんて」  桐生から聞いた金額が生々しく思いだされ、心の底から申し訳なく思う。 「……当たり前のことをしているだけだ。けど、ごめん。あと二体の行方がどうしてもわからなくて」 「もういいんだ、羽琉。じいちゃんはきっとわかってるよ。それに羽琉が責任を感じることはない。責任なら俺にだってある。そもそも簡単に人を信用した俺が悪いんだ」 「違うっ! 真里也は何も悪くない。真里也は被害者なんだ。なのにお前は、親父の罪が軽くなるように証言しただろっ」 「だ、だって、おじさんもあの変な二人組に脅されてたんだろ? 母さんと同じだ。自分で決めたことじゃない。それに──」  それに、羽琉を犯罪者の息子にはしたくなかったんだと、言いかけてやめた。恩着せがましいことは言うべきではない。 「それに? それになんだよ、続きを言ってくれ」  泣きそうな顔で羽琉が言うから、胸が詰まりそうになる。  真里也の願いはずっと同じ、羽琉が夢を叶えること。羽琉が幸せな未来を築けることだけだ。羽琉の輝く将来にシミなど付けたくない。ただ、それだけのことで、玉垣の罪が軽くなるように証言しただけだった。  真里也は首を横に振って、なんでもない、と言いかけた言葉を飲み込んだ。  羽琉の一番近い場所にいられない自分が、奥さんと子どもに囲まれて幸せな羽琉に祝福の言葉は口にしても、自分勝手な願いは言うべきではない。  以前、レストランで見かけた親子三人の姿をまだはっきりと覚えている。  一生大切にすると言ってくれたキーホルダーも娘に渡してしまうほど、羽琉の中で真里也は過去の人間なのだ。  それに……水彩画の講座の日に見た、親子の仲睦まじい姿を目の当たりにすれば、いい加減諦めるしかない。  衝撃を受けたあの日、真里也は自分の気持ちをようやく胸の奥底に沈めることが出来た。  叶わない恋を壊れないようにそっと隠した。  溢れる思いを言葉にしないまま、無理にでも笑って、会わないままで過ごせばきっと、いつかきっと……忘れられるからと言い聞かせて。 「そ、それより羽琉、腹減ってないか? 夕食はすぐ出来ないけど、アップルパイならすぐ出せるんだ」 「アップルパイ? 深町さんのか」  まだ何か言いたげな眼差しだったけれど、真里也の気持ちを汲んでくれたのか、問いかけた言葉に反応してくれた。  食べ物で誤魔化したみたいだけれど、許して欲しい。 「ごめん、俺が作ったやつ」 「えっ、真里也が作ったのか? アップルパイを」 「うん、そうなんだ。深町さんの見よう見まねだけどね。一度自分で作ってみたくて、ネットで調べて挑戦したんだ。今日のは試作品の第三弾なんだけど、感想もらえたら嬉しいな」  冷蔵庫から夕べ作ったパイを出してワンカット切ると、皿に盛り付けて座卓に置いた。 「……食べるよ。食べるに決まってる。真里也が作ったんだ、絶対美味いよっ」  そんなこと言わないで欲しい。  俺が喜ぶ言葉なんて言ってほしくないのに、言われて浮かれている浅ましい自分がいて、そんな自分に腹が立つ。  フォークでひと口分掬い、口に運ぶまでをまじまじと見てしまい、慌てて視線の矛先を変えた。相変わらず眉目秀麗な相好は眩し過ぎて直視できない。 「美味い、美味いよ真里也っ。深町さんに負けてない」  皿を手にした羽琉が、ひと口食べては追いかけるようにパイを口腔内に入れ、あっという間に皿を空にした。 「よかった。お世辞でも嬉しいよ。あ、まだあるんだけど、もっと食べる? ワンホール作ってもひとりじゃ食べきれなく──」  真里也が腰を上げて、冷蔵庫へ向かおうとしたとき、いきなり羽琉に手首を掴まれた。  立ち上がる手前の中途半端な姿勢で引き止めれられたものだから、体のバランスを崩し、後ろへひっくり返りそうになる。  後頭部か背中でも強打すると、咄嗟に手で支えようとしたら、羽琉が受け止めてくれていた。 「っ痛って……」 「大丈夫か真里也。ってごめん、俺が急に手を引っ張ったからだな」  後頭部は羽琉の胸に守られたけれど、思いっきり尻餅をついてしまった。 「いや、ごめん俺の方こそっ」  頼り甲斐のある腕と温かい胸に守られていたことに気付き、慌てて羽琉の体から離れようとしたのに、手首はまだ掴まれたままだった。  おまけに、「真里也……」と、耳元で囁いてくるから、たまらなくなる。 「は……る、手、離し、てくれ」  反対の手で羽琉の胸を突っぱねようとしたら、その手も拘束されてしまった。 「……真里也。聞きたいことがあるんだ」  両手首を掴まれたまま、あぐらをかく羽琉の足の上に乗っけられ、真正面に向き合う形になると、吐息がかかるほどの距離に二人の顔が近付く。  射抜くように見つめられると、何年もかけて記憶の海に沈めた思いが浮かんでこようとするから、真里也は必死で平静を装った。 「な、なに、聞きたいことって……。なあ、それより先に手を離し──」 「真里也は誰かと……その、今、付き合って、いるのか。實川……とか」  いきなり實川の名前が飛び出して唖然とした。  数秒ほど固まってしまったけれど、我に返った真里也は、「なんでそんなことを聞くんだ」と、聞き返していた。  確かに實川にキス……はされたけれど、あれは實川のやけっぱちな感情から発露したもので、真里也の中では事故扱いにしている。  羽琉を好きだと自覚してから、誰のことも好きになれず、ましてや付き合うなんてしたことはない。  目の前で眉根を寄せて、意味不明な質問をしてくる、たったひとりの好きな人が心から消えない限り、誰とも恋をする気持ちにはなれなかった。 「なあ、教えてくれ。實川と、いや、大学とか、職場とかで、その、す……きな人とかができ、て、つ、つきあっているとか……」 「そんな人はいないよ、俺には。羽琉こそ、羽琉の方こそ、結婚したんだろ? 綺麗な奥さんに、可愛い子どももいて……。ほんと、羨ましいよ。あ、俺、結婚祝い贈らないとだな、い、今さらだけど。な、何か欲しいもんある? 社会人になったから、多少高くってもいいぞ。高校の時の誕生日は、大したことできなかった……けど。今なら何でも言ってくれ。あ、家とか車はダ……メ──」  もう……限界だ。  必死で明るく振る舞っていたけれど、自分で言ってて虚しくなる。  途切れた言葉の代わりを、涙が担う。  もう、幸せをかたどる言葉なんて口にできない。  切ない感情だけが身体から離れず、大好きな人が選んだ未来を祝福できない自分が情けない。 「真里也……聞いてくれ。あの──」 「ごめんっ! ごめん……羽琉。やっぱりもう……帰ってくれない、かな」  とうとう泣いてしまった。羽琉の前であからさまに涙を溢すなんて卑怯だ。  優しい羽琉が手を差し伸べてくれるんじゃないかと、まだ心の隅っこで期待している。  薄汚い気持ちをこれ以上晒したくなくて、真里也は両手で羽琉の胸を押し退けると、立ち上がって居間から出ようと襖に手をかけた。 「真里也、俺の話を聞けっ」  背中にかけられた羽琉の声が縄のように、真里也の身体へと巻き付く。  話し……。彼女との未来設計でも聞いて欲しいのか? 幼馴染として、親友として。  (むご)すぎると思ったけれど、真里也の気持ちを羽琉は知らないのだから仕方ない。 「ごめ、ん。それ、今度……でいいかな。話を聞くのは、いま……は、ちょっと無理……かも」  後ろを向いたまま訴えると、自分に近づいてくる羽琉の気配を感じた。  逃げなければ、離れなければいけないと思うのに動けない。固まったままでいると、羽琉の体が背中に触れて、逞しい腕が真里也を閉じ込めるように胸の前で交差していた。 「真里也、俺はずるい。お前に誰か特別な人がいるのか確かめないと、怖くて話もできないなんて」  羽琉の腕の中から逃げようとしたけれど、低くて甘い声が耳から注がれると、囚われていたいと思う心が体を動けなくする。 「……わか、った。聞くから。だからこの手を離し──」 「お前は勘違いしてるっ」  羽琉の腕に手をかけて、拘束から逃れようとしたら言下に言われた。 「かんち……がい? どう言うこと……」 「顕子さん、清瀬顕子さんは、俺の奥さんでも何でもない」  奥さん……じゃない?   羽琉は今、確かにそう言った。言ったけれど、すぐに理解できず、脳内がパニックを起こしている。  三人の姿を初めて見た時から、何年もずっと、ずっと親子だと思っていた。  羽琉は綺麗な女の人と恋愛をして恋人になって……そして結婚したと、ずっと思っていた。  それを違うといきなり言われても、(にわ)かには信じられない。 「う……そだ。だって、それなら何であの女の子が、お前を『パパ』って呼ぶ……んだよ。俺はちゃんとこの耳で聞いたんだ。それに、俺の作ったキーホルダーもあの子、あの子がカバンに付けてた……し」  羽琉の腕の中で体を反転させ、正面から向き合う姿勢になって訴えた。  一生、大切にすると言ってくれたものを簡単にあげたと知り、どれだけ辛かったか。 「自分の子どもだから、あげたんだろ……。そんなに手放したかったら、捨ててくれた方がマシだっ!」  滂沱(ぼうだ)しながら、真里也は思いっきり叫んでしまった。  高校生のとき、好きだと言ってくれたのに突然姿を消した羽琉。失って初めて自分の想いに気付いた、だから必死で探した。  自分にできることはそれしかないと言い聞かせて、慣れない接客業にも挑んで情報を集めて、探して、探して、ようやく見つけたのに、羽琉は別の人のものになっていた。  突きつけられた現実が真里也の心を追い詰め、毎日、毎日、家の中に残る羽琉の姿に縋って、干からびるほど泣いた日々を思い出しながら叫んだ。 「捨てるわけないだろっ! 真里也が俺にくれたものを、俺が捨てるわけない」 「だったら、何であの子が持ってたんだよっ」  切ない気持ちを醜い言葉で吐き出した。  こんな言い方したくなかったのに、可愛い女の子はちっとも悪くないのに、二人を責めるような言い方をしてしまった。  真里也の肩に手を置いたまま、羽琉が回顧を探るように何か考え込んでいる。そして思い出したのか、泣きそうな顔でごめんと、謝られた。 「あのときは、真帆(まほ)──あ、顕子さんの子どもな。真帆が歯医者に行くのをぐずって、キーホルダーを貸してくれたら行くって言うもんだから、一回だけの約束で貸してあげたんだよ。俺が家の鍵に付けていたのをいつも、羨ましそうに見てたからな。何度も欲しいってねだられたけど、大切な人にもらったものだから、あげられないって断ってたから」  大切な……人。それって、それって──  聞きたい言葉はどんどん膨れてくるのに、何をどう言っていいかわからない。伝えたい想いが伝えられないまま心の奥にあり、そこから痛みを伴うほど羽琉を好きな気持ちが湧き上がる。  言葉を発することができずにいると、肩に置かれた手が頬に触れ、怯えるような手つきで撫でられたから、また涙が溢れてしまった。 「顕子さんは俺を助けてくれた人の娘さんで、彼女には優しいご主人が、真帆ちゃんのパパがいる。俺は、他の誰も好きになんてならない。俺の気持ちはずっと変わってない。真里也だけが好きで、真里也しか欲しくない。けど、お前は俺をそんな風に見てないって思ってた。けど、さっきからの真里也の態度は──」 「俺が何もわかってないから、だから勝手に消えたのかっ」 「違うっ! そうじゃない。俺が、俺が弱くて、情けないからだ。お前の側にいて支えることも、一緒に笑って過ごすことも……できなかったんだ」  羽琉の視線が、歪な真里也の小指に注がれている。真里也にとって、羽琉の存在を示す証は、羽琉からすれば、磔刑(たっけい)のように背中にずっとのしかかっていたのかもしれない。 「羽琉は情けなくないっ。優しくて頼り甲斐のある、俺の……お、俺の……好きな人だ」  涙で視界が滲んで羽琉の顔が見れない。  真里也は目の見えない人がするように辿々しく手を差し伸ばすと、両手で羽琉の顔をそっと包んで、募らせていた想いを紡いだ。 「好きって、それはどう──」  羽琉の言葉を最後まで聞かず、真里也は思いっきり背伸びをして羽琉の唇に口付けた。触れるだけの拙い口付けは、今の真里也ができる精一杯の愛の証だった。 「ま……りや……今のって──」  信じられないものでも見たような顔をして、羽琉が自身の唇を確かめるように指でたどっている。 「俺は、羽琉に会えなくなってから自分の気持ちに気付くくらい、鈍くて幼稚だった。気付いたときには遅過ぎるって思ったけど、自分の気持ちを言葉にして伝えようと、ずっと羽琉を探してたんだ。けど、やっと見つけた羽琉の横には、あのきれいな人と可愛い女の子がいたから……だから、あき、らめよ、うって、何度、も何度も……」  途切れ途切れの告白は、うまく羽琉に伝わったのかわからない。  真里也は小さな子どものように、何も言えなくなって泣きじゃくってしまった。俯いて嗚咽していると、羽琉の腕の中に引き寄せられ、そっと抱き締められた。 「遅すぎることなんてない。ありがとう……真里也。俺を諦めないでいてくれて」  言葉と一緒に羽琉の腕に力が籠ると、身体中の骨がキシキシと鳴いて喜んでいる。折れてもいいから、もっと、もっと強く抱き締めて欲しいと願って縋った。  もう、二度と、大好きな人の腕の中から離れたくない。 「羽琉、俺、羽琉が好きだ……大好きだよ」  温かい胸に頬ずりしながら、羽琉の背中にそっと手を回して、お返しのように強く抱き締めてみる。すると、顎を掴まれ、優しい口付けが降ってきた。  離れてしまった唇に手を差し出して触れてみると、お返しのように歪んだ小指へと羽琉の唇が触れた。  傷を癒すような優しい温もりは身体中に浸透し、そこから愛しさを全身に与えてくれる。 「真里也だけをずっと愛している、これまでも、これからも……」  誓いのような言葉と一緒に羽琉が口付けをくれる。  深く、ちょっと強引な口付けは、真里也から離れ難いと言うように何度も重ねられ、慣れない行為に息苦しくなった。  訴えようとこぶしで羽琉の胸を叩いても、要求は聞いてもらえず、角度を変えて何度も貪られるうちに下半身から力が抜けてしまった。  崩れ落ちそうな体を羽琉が受け止めてくれると、畳の上にそっと寝かされて二人の視線が絡まる。見上げる先には大天使が慈しむように微笑んで見下ろしていた。  長くて細い指が前髪を掻き分けてくれると、露わになった額に唇が落とされて、触れたところが熱を持ち身体中が熱くなってしまう。 「は……る、好きだよ……。きっと、ずっと前から羽琉のことが好きだったんだ……」  美しい顔にそっと触れると、差し伸ばした手首を掴まれて、畳に縫い付けられると、再び濃密な口付けをされる。  熱でもあるんじゃないかと思うほどの熱い舌が真里也の口腔内で暴れていると、水音が卑猥(ひわい)に聞こえて恥ずかしくなる。  溢れる蜜が口の端から溢れても、羽琉からの甘い攻撃は止まらず、呼吸ができずに顔を背けて息継ぎをした。 「だ、だめっ。は、羽琉……、息、が……できな」 「……真里也、鼻で息をするんだよ。そうしたら、ずっとくっついていられる」  嬉しそうに笑って言う羽琉が憎らしい。こっちは初めてなのに、鼻で息をするなんて慣れないのに、羽琉はどこで誰とこんな行為を済ませたのか。  ムッとして見せると、また唇を奪われた。   今度はすぐ離れてしまい、せっかく鼻で息をする方法がわかったのに、と拗ねて見せた。すると、羽琉の唇が、頬、首筋へと移動してきて、畳に縫い付けられていた両手首を片手でひと纏めにされると、羽琉の大きな手が真里也の胸を弄ってきた。  初めての快感に、「っんん」と、変な声が出てしまって、もの凄く恥ずかしい。 「可愛い、真里也。俺の、俺だけの真里也。やっと触れられる。やっと、お前を思いっきり抱き締められる」  甘い言葉を囁かれると、思考も心も翻弄されてしまった。  腰が僅かに反ったのを見透かされ、下腹部の下で唆り立つ真里也のモノへ羽琉が触れてきた。  ピクッと反応してしまうと、応えるように羽琉の手に力が入り、上下に軽く扱かれると、脳があっという間に痺れてきた。 「ああ、だ、め。は……る、そこ、触っちゃ……」  懇願しても羽琉はやめてくれない。  さっきから真里也の意思は、(ことごと)くスルーされている。  逃げるように顔を横に背けると仏壇が目に入った。  真里也は今度こそ言い分を聞いてもらおうと、羽琉の背中をトントンと、叩いた。 「な……に、真里也。痛かったか?」  心配そうに見下ろしてくる眼差しに、涙目で訴えるよう、「じいちゃんたちが見てる……」と、伝えた。  さすがにそれはまずいと思ったのか、羽琉が体を起こすと真里也の手を引っ張り上げてそのまま軽々と抱き上げられてしまった。 「お前の部屋に行こう」  言いながら羽琉の足は器用に襖を開けていて、真里也の部屋へと向かった。

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