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俺だけのもの

 羽琉に抱き抱えられたまま、廊下の奥にある真里也の部屋に行くと、ベッドの上にそっと寝かされた。  これから何が始まるのかわかっていたけれど、あまりにも羽琉が潔くTシャツを脱ぎ捨てるから自分はどうしたらいいのか戸惑う。  引き締まった上半身をまじまじと見ていると、真里也も脱いでと言われ、とうとう来たかと身構えてしまった。 「はい、バンザイ」  羽琉が自分の手を上げて見本を見せてくれるけれど、子どもじゃないんだからと言いたくなる。こっちは何か話してないと緊張でおかしくなりそうだというのに、余裕がありありの羽琉が妬ましい。  小さなころから羽琉の前で何度も裸になっていたけれど、今の状況は無邪気に肌を晒していたころと理由(わけ)が違う。それでも先に進むために、真里也はおずおずと腕を袖から抜いて上半身を曝け出した。  宵闇からすっかり夜の景色になった部屋は、灯りこそ点けてなかったけれど、窓越しに月の光が差し込んで、羽琉の美しい姿はより一層、天使に近付いて見えて貧相な自分の体が恥ずかしい。  真里也のもとに戻って来たミカエルにうっとりしていると、額から頬へと順に口付けをくれた。  そのまま唇に重ねられ、啄むように何度も蓋をされる。  止まない口付けの応酬に朦朧としていると、素肌の胸を優しく撫でられた。  何かを探すように彷徨う羽琉の指が小さな突起を見つけると、秘芯には一瞬しか触れてくれず、周りだけを執拗に指でなぞってくる。  そこじゃなくて、もっと、とねだってしまいそうな自分が恥ずかしい。   欲望を満たして欲しい場所だけを避けられ、下半身が疼いてもじもじしてしまう。唇は奪われたままで何も言えず、頭がおかしくなりそうだった。  翻弄されたままの真里也を置き去りにする羽琉の手がゆっくり下降し、唆り立った真里也のモノを布越しにきゅっと握り締めてくる。同時に、期待に満ちて尖った桃色の先端を甘噛みされると、全身に快感が走った。 「ああっん、ああ、は、はるっ」  はしたない声が勝手に出て、思わず真里也は手で口を覆った。 「ダメだ、真里也。口を塞ぐな。お前の可愛い声をもっと聞かせてくれ」  蕩けるような命令を下されると、拒否するどころかもっと自分を欲しがって欲しいと邪な欲望が湧き上がる。  もっと、もっと、羽琉を感じたい。離れていた時間を埋めるように、そばにいるんだと実感させて欲しい。  思いが通じたかのように羽琉の手と唇は休む間もなく、真里也を攻め立ててくる。真里也のモノを握っていた羽琉の手が離れ、下着ごとズボンを一気に脱がされた。  体に纏うものがなくなった真里也は、両手で素肌を隠そうとしたけれど、花園をかき分けるように羽琉の手によって剥がされる。  緊張と興奮で胸にある小さな二つの器官が、誘うように突き出ると、羽琉の口腔内に含まれて反対の突起は指で摘まれた。 「あふっ、んんっ」  また淫らな声が出てしまう。恥ずかしくて顔を覆いたかったのに、両手は羽琉に拘束されているから抵抗できない。  翻弄されていると、胸から臍、下腹部へと羽琉の舌が這う。  興奮して蜜を滴らせている鈴口を舌で舐められると、熱い口腔内に先端からすっぽりと収められてしまった。 「ああ、だ、め。はる、そんなとこ、きたな──」 「汚くない。真里也のどこを舐めても美味いし、甘い。こんなこと、俺以外のやつに、絶対にさせるなよ」  羽琉以外に触られるなんて嫌だ、と叫びたかったけれど、快感で思考がおかしくなった真里也はそれどころではない。  淫靡な水音をさせながら、羽琉が真里也のモノを含んで濃密な快楽を引き出そうとしてくる。  激しい口淫にたまらなくなった真里也は、陸に上がった魚のように、体をぴくぴくとさせて、白濁を放ってしまった。 「……は、はる……、もし、かして、飲ん……だ?」  下から上目遣いに見つめてくる羽琉が、自身の唇を指でなぞり、当然だろと、微笑む。  自分の放出したものを胃に収めるなんてと、呆然としていると真里也はうぶだなと、嬉しそうに抱き締められた。 「今日はここまでにしよう。真里也にはきっと、キツい──」 「やだっ! お、俺は平気だ。俺だって、羽琉を気持ちよくしたい。せっかく会えたのに、やっと羽琉を俺だけのものに、できんのに……」  最後までして欲しいよ。と呟いたらなんとも言えない顔を羽琉がする。嬉しいような困ったような。その表情が可愛すぎて、羽琉の首に腕を巻き付けると、ねだるように頬ずりした。 「マジでいいのか……。その、真里也は初めてだし、痛いと思う。だからやっぱり、この先は今度に──」  まだ怖がる羽琉の口を自分の唇で塞いでやった。  さっきまで羽琉にしてもらったように、舌を口腔内に差し込んでみると、羽琉の体がピクッと反応する。  嬉しい、俺も、羽琉を気持ちよくできてる……。  羽琉、羽琉……、怖がらないで、もっと俺を欲しがってよ。  腹の底から湧き上がる高揚感をぶつけるよう、羽琉の唇を必死で貪った。時々、歯と歯がぶつかったけれど、初心者なんだ、許してもらおう。  拙い真里也の攻撃でスイッチが入ったのか、荒げた息をする羽琉が真里也の白い肌に花びらを撒き散らすように唇を押し当ててくる。  頭からつま先まで散らす口付けを終えた羽琉が、オイルかクリームでもあるかと、囁いてくる。  真里也はベッドの横の机まで手を伸ばし、デスクライトを点けると、机上にある小さな引き出しからハンドクリームを取り出した。 「羽琉、これでいい?」  ネロリの香りがするお気に入りのハンドクリームを差し出すと、眉根を寄せながら羽琉が受け取る。  やっぱり初めてだと面倒なのかなと、悲しくなっていると真里也の様子に気付いたのか、羽琉が慌てて「違うんだ」と、呟いている。 「その……忘れてたんだ。ゴムがないって。クリームはこれで代用できても、アレがないと……」  なんだ、そんなことかとホッとした。 「羽琉さえよかったら、俺は……その……なくても、全然、いい、よ」  あまりにも恥ずかしいことを言っている。なんだか自分が娼婦にでもなった気分だ。  初心者が何を偉そうなことを言っているんだと、妄想で自分の頭を叩いた。  全裸のまま向き合っていると、更に恥ずかしくなって、思わず布団を頭から被って羽琉の視線から逃げた。 「ど、どうした真里也。なんで隠れるんだよ」 「だって、俺、もの凄くはしたないことを言った。羽琉、引いた? 引いただろっ」  真っ暗な闇の中から叫ぶと、布団を剥がされて抱き締められた。 「可愛い、真里也。お前は本当に可愛い。好きだ、大好きだよ」  可愛い──。言われたくない言葉でも、羽琉からなら何度でも聞きたいと思った。いや、それよりも嬉しい気持ちが止まらない。  子どもの頃から家族以外には言われたくない言葉でも、羽琉からは平気だった。それなのに今は平気どころか、もっと言って欲しいと、囁いて欲しいと願っている。  素肌同士を合わせてお互いの鼓動を重ねていると、羽琉が片手でキャップを外し、中から器用にクリームを取り出している。指先に乗せて真里也の小さな窄まりに付着させると、ゆっくりと指を差し込んできた。  初めての感覚が違和感すぎて、勝手に足が閉じようとする。  羽琉の様子を伺おうとそっと見上げると、思いっきり後悔を滲ませている顔がそこにあった。  真里也の嫌なこと、痛いことをし過ぎないようにと怖がっている、(ひと)が愛おしい過ぎておかしくなりそうだ。 「平気だよ、羽琉。俺は羽琉にされて嫌なことは何もない。だから、怖がらないでよ」  真里也は決意を示すよう、自分の足をゆっくりと開いた。  恥ずかしいことをやっている自覚は思いっきりあるけれど、羽琉のものになりたい気持ちが羞恥をも乗り越えて真里也を突き動かす。  羽琉の喉仏が上下し、ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえそうなほど、色っぽい顔に移り変わった。その姿に、真里也のモノは触れられていないのに呼応して角度を増していった。  蜜壺に指が抜き差しされると、だんだんと違和感に慣れてくる。  指の数が二本、三本と増えるごとに、痛みと同時に初めて知る快楽がそこから生まれて、いやらしい声が出そうになった。 「真里也……お前の中に入ってもいいか」  真里也はこくこくと頷くと、背中に枕を入れられ、両下肢を抱えられた。  二人の股間同士が近付くと、窄まりに羽琉の熱くて硬いモノがあてがわれる。そのまま力を込めて羽琉が突き進むと、皮膚が裂けそうな痛みが走った。 「痛っ」  絶対言わないでおこうと決めていた言葉が勝手に出てしまい、慌てて口を塞ぐと思った通り羽琉が身を引こうとしている。  だから真里也は言った、やめないで──と。 「でも、痛いだろ。俺、真里也が痛いことはしたくない」  往生際の悪い羽琉が躊躇しているから、真里也は自分の足を羽琉の背中に絡ませて羽琉に抱き付くと、耳元で言った。  ──俺、ひとりでスルとき、初めて羽琉に体を触られたことを思い出してシテたんだ──  悪戯をしたあとのようにしたり顔で羽琉を見ると、何も言わず、羽琉が自分のモノを真里也の中に押し込んできた。 「ああんっ、羽琉。は、る……、そのま……ま、羽琉のものに、し、て……」 「真里也、真里也、お前……って、最高にかわいい……。っんなに俺を、煽ってどうすん、だ。あ、ああ、すっげ、イイ。真里也の中、熱くて、狭くて、絡みつ……ぅ。腰、止まんないっ」 「うぅん、イイ、はる、はる、おく、そこ気持ちぃ、イイ、ああん。お、れ、おかしくなるぅ、こんな……の、あぅうっ」  肌と肌がぶつかり合う音が生々しくて恥ずかしいのに、それ以上に多幸感が溢れている。大好きな羽琉に全てを捧げて、全てを受け入れる。  二人で紡ぐこの行為こそ、証だと思った。  汗を纏い、激しい抽挿を繰り返す愛しい男。  この世でたったひとりの愛する人。羽琉のためなら命さえも惜しくない。  羽琉の固く唆りたったモノが真里也の中の最奥に触れると、目から火花が飛び散ったように眩しくてクラクラした。 「イく、イく、真里也、俺、もう、もたない──」 「お、れも、羽琉、キモチ、イイ。初め、てなのに、俺、ああん、あふぅうくぅ、でちゃう、ああ、イくぅう、はる、羽琉ぅ」  名前を口にしたと同時に、自分の腹の上に白濁を撒き散らした。腹の中ではどくどくと羽琉のモノが脈打っている。熱いものが体の中を満たし、真里也の中に溢れんばかりの幸せが浸透していった。  汗ばむ羽琉の体に覆われると、心臓の音が響いてくる。  自分の音なのか、羽琉のものか。どっちでもいいかと、真里也は思った。  ひとりぼっちだった心は、何年も羽琉だけを求めて彷徨い、ようやく羽琉の心と触れ合って手に入れたのだ。  絡まりもつれた片想いは何年も胸の中で戸惑い、行き場をなくして苦しみもがいていた。すれ違っていたお互いの想いが、好きのひと言を伝えて身を結ぶ。  羽琉じゃなければダメなのだと、身体全部を使って伝えた。  羽琉の特別になりたいと、伝わっていたら嬉しいなと、真里也は思った。  だから羽琉、俺は声をあげて言うよ。ただひと言、お前が一番大好きで大切な人だと。  鼻頭同士を擦り合い、微笑んで、また抱き合った。  羽琉の何もかもが愛おしくて、すぐ横にいるのにまだ足りない。  繋ぎあった手の温もり、髪を撫でてくれる指。  熱に触れて愛しさを知ると、これまで辛かった日々は、竜巻にでも拐われたように真里也の中からあっという間に消えていった。  

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