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第20話 王位の危機

 切迫した事情。それは、国王の危篤だ。  かすり傷と軽視したことが、見る見るうちに、大変なことになってしまった。  国王の侍医団は何をしていたのだ! と腹立たしいく悔やまれるが、今、それを言っても始まらない。    ハーデスの失踪に続いて、国王の怪我からの危篤状態。そもそも怪我も偶然だったのだろうか? ヘパイストスには疑心暗鬼を生ずる。  まさか仕組まれたこと……否、今はそれを考えるよりは、ハーデスを探さねばならない。一刻も早く。これは時間との闘いだ。  ハーデスの失踪し、そして国王が重体となり床に就いてから、常にその側にウラノスが付いている。  ウラノスは、国王の子ではあるが王子とは認められていない。  もし、ハーデスがいればウラノスが国王の病床にここまで近づく事は出来ない。四人の子供の中でウラノスの序列は一番低い。ハーデスは無論、ヘスティアは誉れの王女。エキドナも王女だからだ。ウラノスは王子ではないため末席。公式の場に出ることもほとんど許されない。    しかし、この国王重体という事態になってウラノスの存在が大きくなる。  もし、このまま王太子ハーデス失踪のまま国王が崩御したら、誰が王位を継ぐのか……。  星の国では女が王位を継ぐことはできない。王子がいなければ、王女が婿をとってその婿が王になる。王女自身が王になることはできないのだ。  ハーデスがいなければ、ヘスティアに婿をとるべきその選定が急がれただろうが、ハーデスがいたのだ。ヘスティアの婿選びより、ハーデスの妃選びが重要視されたし、ヘスティア自身結婚への気持ちはまだない。  エキドナは、ハーデスの妃を狙っていたので、婿をとるなど論外の気持ちだった。  つまり、王女二人は未婚なのだ。  そうなると、残る国王の子はウラノス一人。  だが、通常なら王の子と言えど王子ではないウラノスが王位を継ぐのはかなりの抵抗がある。王の子でなくとも、王族から選ばれることになるだろう。しかし今は、緊急事態。今から選定するには遅い。  何故なら、王位を空けるわけにはいかないからだ。国王崩御の場合、直ちに新国王が即位するのは絶対の決まり事。  今、ハーデス失踪のまま国王が崩御したら、ウラノスがなし崩し的に即位する可能性が高い。  一度即位してしまえば、ウラノスは国王だ。そこへ、ハーデスが戻ってきて王位を主張しても聞き入れるウラノスではないだろう。一度掴んだ玉座は離さないだろう。  それに抗えば、ハーデスの方が国王への反逆とみなされる。  無論、ウラノスの人となりは国王に相応しくないのは多くの人が認める事実。ウラノスに反発してハーデスを支持する勢力は多いだろうが、そうなると最悪内戦になる。  今まで星が一つの国にまとまっていたのものが、割れる事態にもなりかねない。それは避けたい。  つまりは、国王崩御の前に、ハーデスは星へ帰らねばならない。最悪の事態を回避するにはそれしかない。  これは、王位の危機だ。ひいては国の危機でもある。  誉れの御子、生まれながらにして王太子。そのハーデスの王位の危機は国の平和の危機。  ハーデスが帰国すれば、王太子の即位に異を唱える者はいない。ウラノスには人望が無い。彼に味方するのは、一部の取り巻きだけで、その取り巻きは野卑た者が多い。ウラノスが即位すれば、そういった輩が好き放題するのは火を見るよりも明らか。皆、それを憂慮して、ハーデスの帰りを待っている。  誉れの御子である王太子ハーデスこそ、王位を継ぐべきお方。  それが大方の国民の総意である。  地上へ来たヘパイストスは、何の手がかりもない中、気が通じない不安の中で、必死に主であるハーデスを探したのだ。  不安を打ち消しながらの、時間との闘いでもあった。  どうか陛下、ハーデス殿下が帰国するまで、頑張って下さい。そう心で唱えながら、探し続けたのだった。  そして漸く見つけた。  ヘパイストスにとって、今まで生きた中で一番の喜びだった。  気が通じなかったのは、ハーデスが記憶を失っていたため、それは全く思いもしなかった。  記憶を失くせば気は通じなくなるのか……初めて認識したが、絆が切れた訳でなく良かった。  ヘパイストスにとってハーデスの死も怖いが、絆が切れることの方が怖い。だから、良かったと心から安堵した。  王宮へと戻って行くハーデスを見送ったヘパイストスは、急いで星へと通信する。  ハーデスの無事と、帰国のための飛行船の手配のためだ。  ヘパイストスの知らせに星では歓声が上がったようだ。王太子の無事が確認できた。後、数時間で帰国される。  多くの者が待ちに待った嬉しい知らせなのだ。  ヘパイストスからは国王の容態を尋ねた。重い容態に変わりはないが、意識はまだあるようで、少し安堵する。ハーデスの帰国まであと数時間、何とか間に合いそうだ。  ここしばらくの焦燥感から、少し解放された。無論、国王の崩御前、出来れば意識のあるうちに帰国したい。それまでは気を抜けないが、多分大丈夫だろう。  ヘパイストスは飛行船を待ちながら、ここ地の国のことを考える。ここがケトメという王国なのも、今回初めて知った。  多分、こんなことが無ければ来ることは一生なかった国だろう。  ハーデスを助けてもらった王子とこの国には感謝してもしきれない。改めて宰相から正式な礼は必要だが、先ずは自分が心からの礼をしなければならない。  そして、ハーデスの身分も明かさねばならない。その為にも王太子専用の飛行船で星へと帰らねばならないと思い、専用の飛行船を手配した。無論、ハーデスの衣装は積んである。  先程の身なりからして、ハーデスの身分は知られていないだろうと、ヘパイストスは思ったのだった。

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