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第21話 愛の告白
ハーデスが王子の宮に行くと、セティも上宮から戻っていた。
ハーデスは先ずはアニスへ伝えることにした。
「アニス、驚かずに聞いて欲しい」
「……何?」
「記憶が戻ったんだ」
「えっ! そっ、そうなのか!?」
アニスは驚愕する。驚かずにはいられない。
「で、お前はどこの誰なんだ?」
「わたしの名はハーデス。星の国の王太子です」
「ほっ、星の国の、おっ、王太子! 星ってあの星!?」
アニスは空へと指を突き上げる。頷くハーデス。アニスの驚きは益々大きくなる。星に国がある。ネフェルがそこの王太子って、アニスの想像の枠をはるかに超えている。
ハーデスは、アニスの驚きは無理もないと思い、一息入れる。そして静かに話し始める。
「わたしは星の国で常に運命の相手を探していました。ある日、地上にわたしの運命の輝きを見つけたのです。それを掴もうと手を伸ばして、この国へ落ちてしまったのです。それをセティ様が助けてくださいました」
そうか、落ちたのか……だからあんなにズタボロだったんだな。あの時のネフェルの姿を思い出す。しかし、運命の相手とは? 続くハーデスの言葉が、アニスに思い浮かんだことを肯定した。
「わたしの運命の相手、それはセティ様に間違いありません。わたしはセティ様に会うため、星から落ちたのです」
「お前の運命の相手がセティ様……」
見つめるアニスに、ハーデスは大きく頷く。
「実は、星の国の国王であるわたしの父が重体で明日をも知れぬ状態なのです。今までお世話になり申し訳ございませんが急ぎ帰国せねばなりません。それで、セティ様にわたしの全てをお話して、両陛下と王太子殿下にもお話したいのです。どうか、取り次いでいただけますか?」
アニスは了承した。自身も未だ混乱しているが、とにかく皆に知らせねばならないことは分かる。
アニスから、ネフェルの記憶が戻ったと聞いたセティは驚きの表情で小走りにやって来た。
「ネフェル! 思い出したとは本当か?」
「はい、先ほど湖畔でわたしを探していた従者に会い、それで全てを思い出しました」
「そっ、そうか良かったな……名は何というのだ?」
「ハーデスでございます」
「ハーデス、そうかではこれからはハーデスと呼ばねばならんな。そなたの本当の名はハーデスだから」
そしてセティはハーデスがどこから来たのか、その事情も尋ねた。
「そうか……星に国があるとは……全く知らなんだ。おっ、王太子とは……」
セティにとっても全く持って驚愕の事実である。しかも、王太子と言えば、兄のウシルスと同じ立場。ネフェルの育ちの良さは感じていたが、それほどの身分とは……。
「知らぬとはいえ、呼び捨てにして申し訳ない。ハーデス殿下とお呼びせねばな」
「とんでもございません。むしろわたしは、セティ様が付けて下さったネフェルと呼んでいただきたいくらいです」
「ネ、ハーデス殿下……」
ネフェル……否、ハーデス殿下。空に光る星の国の王太子殿下。
では、では星へと帰るのか!? セティの中で、その事実に突き当たる。
胸が詰まった。そしてそれは突き上げ、涙になって流れる。
セティの白皙に輝く頬へと涙が滴り落ちる。
「セティ様!」
ハーデスは、思わずセティへと近づく。
「す、すまない。ネフェルが、ハーデス殿下が星へとお帰りになると思うと……」
「セティ様、どうかわたしの話を聞いてください。先ほど話した運命の輝き、それはセティ様あなたなのです。わたしが探し求めた運命の相手はセティ様に間違いありません。そしてこの国で暮らすうち、記憶は失っておりましたが、ずーっとセティ様を思っていました。身分が違うからと口には出しませんでしたが密かにお慕いしていたのです」
セティはハーデスの言葉に驚き、泣きぬれた瞳でハーデスを見つめる。何か、愛の告白のように思える。
「セティ様、愛しています。あなたはわたしの運命の相手。どうかわたしの妃になっていただきたい」
「ネフェル……いや、ハーデス様」
セティもハーデスを、ネフェルを思っていた。それを口にすることは王子として許されなかった。でっも、今なら告げてもいいのか……。
「わたしも、わたしもネフェルを思っていた……」
それ以上は言葉にならなかった。セティはハーデスに抱きついた。ハーデスはセティを力強く抱きしめる。
二人は共に運命の融合を心と体で感じる。
「父が危篤状態なので、急ぎ帰らねばなりません。しかし、落ち着いたら必ず正式に結婚の申し込みにまいります。どうか、それまで待って下さいますか?」
「お父上様が大変な状態なのですから当然です。わたしはあなたを信じて待っていますから、どうか急ぎ帰国なさいませ」
セティはこのままハーデスに抱かれていたかった。ハーデスの腕の中は温かく、心地良い。
しかし、国王が危篤状態の時に、王太子不在はいけない。今まで不在だったことも相当問題であったろう。急ぎ帰国せねばならぬのは当然のことと、自分に言い聞かせハーデスから離れる。
二人は国王に挨拶するため上宮へと向かう。すると、上宮の前に近衛兵が何人もいて、その中心にメニ候の姿が見える。
「メニ候、何かあったのか?」
「セティ様、王宮の前に見知らぬ船のような物体が突如降りて来たのでございます。何なのか確認せねばなりません。危険性もありますれば、セティ様は中へお入りください」
「あっ、それはわたくしの国の飛行船でございます。危険性はありませんので、ご安心下さい」
ハーデスの言葉に、メニ候の顔色が変わる。
「どういうことだ!?」
「メニ候、ネフェルの記憶が戻ったのだ。その旨父上へお伝えしにきたのだ」
セティはそのままハーデスと共に上宮の中へ入っていく。メニ候もそれに続いた。
上宮にはウシルスも来ていた。セティの後ろにハーデスの姿を見ると、咎めるような厳しい視線を送る。それを、メニ候は頷き返す。
「セティどうしたのじゃ? 何やら見知らぬ物体が現れたと、太子から聞いておったのじゃ」
「その件も含め、父上にお話がございます。兄上も一緒にお聞きください」
セティは二人にネフェル、ハーデスの記憶が戻ったこと。そしてハーデスの身分を話して聞かせる。
「そして、見知らぬ物体は」
ハーデスに視線を向けると、その後をハーデスが引き取る。
「わたくしの国の飛行船と言う、空を飛ぶ船にございます。わたくしを迎えにきたのです。許可なく降り立ったこと深くお詫びいたします。そして、ズタボロになったわたくしを助けてくださいましたこと、深く感謝いたします。感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」
空飛ぶ船! この場の全員が驚愕に目を見開く。ネフェルと呼ばれた者が、星の国の王太子という事実にも驚くが、星の国も相当力があるというか、文明が進んでいるのか。
ここケトメ王国には空飛ぶ船などない。そのようなもの想像もつかない。船が鳥のように飛ぶのか!?
「あなたが、星の国の王太子とは正直驚いたが、記憶が戻られたのは何より。迎えが来たということなら、今から帰られるのか?」
国王が皆を代表するように問う。
「はい、実は国で父である国王が重体なのです。こちらの事情で申し訳ございませんが、わたくしは直ぐに帰らねばなりません。落ち着きましたら、正式にお礼のご挨拶に再訪させていただきますので、この度は非礼をお許し願いたい」
「お父上が重体……それは急がねばなりませんな。挨拶など気にするには及びませんぞ」
「ありがたいお言葉身に染みます。そして……」
ハーデスにとって、ここからが大切な本題。
「実はわたくしが星から落ちたのは、運命の相手の輝きを見つけたからです。わたくしは長年、自分の妃になるべく運命の相手を探していました。しかし自分の国、星の国にはいないと感じていました。その運命の相手がこの国にいると輝きで知ったのです」
ハーデスは一息つく。皆がハーデスの次の言葉を固唾を吞んで待つ。
「わたくしの運命の相手、それはセティ様です。セティ様がズタボロになったわたくしを助けて下さったのも、運命だと思っています。わたくしが探し求めていた運命の相手はセティ様。是非にセティ様を我が妃にお迎えしたいと思っております。帰国後落ち着きましたら必ず正式に求婚の使者をたてます。その節はどうかお許し願いたいと存じます」
ハーデスの言葉は思いもよらず、国王はウシルスと顔を見合わせる。ウシルスも驚愕の顔色だ。
セティがこの星の国の王太子の運命の相手! つまり、それはセティが星の国の王太子の妃になるということか!?
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