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第22話 王室一家の話し合い

「セティを妃にと!?」 「はい、そうでございます」 「それは、側室としてかな」 「いいえとんでもございません。正室としてです。王太子妃、将来の王妃としてでございます」 「貴国では、それを承知なさるのかな。他国の者を王太子妃として迎えることに異論はありませんかな。しかもセティがオメガであるのは事実。それも貴国では受け入れられるのかな」 「正直異論が無いとは申せません。しかし、それは必ずやわたくしが、解決いたします。セティ様がオメガであるからこそ、わたくしの運命の相手なのですから」  騒ぎを知った王妃とアティスもこ姿を現し、ハーデスの言葉に驚愕の態だ。国王は皆に視線をやり頷く。 「ハーデス殿、セティは余の大切な王子。それは我が王室一家にとっても同じこと。貴殿の申し出、余りに意外で戸惑っているのが正直なところ。暫し時間を頂けるか?」 「当然にございます」  王室一家の面々は、話し合うために奥へ下がる。セティもハーデスに視線を送った後、奥へと入って行った。  それを見送ったハーデスは飛行船へ行き、ヘパイストスを連れてくることにする。 「皆、どう思うか? 正直余は驚いた。あの方が星の国の王太子であるという事実もだが、セティを妃にとは……」 「星にも国があるとは……おとぎ話では聞いたことがありますが……あの見知らぬ船のようなもので来たのですか?」 「いや、落ちたそうだ。ハーデス殿曰く、運命の相手の輝きに手を伸ばしたら落ちたと、その相手がセティだと言われるのだ。故にセティを妃にもらいたいと、そういうことじゃ」  落ちた!? 王妃とアティスには更に驚愕の事実だ。だからズタボロだったのか……。さらに驚くのは、セティが運命の相手!  全てが驚愕の事実だ。それはセティにとっても同じことではある。確かに驚いた。星に国があることも知らなかったのだから無理もない。しかし、全て受け入れてハーデスを信じたい。  星の国、全く見知らぬ国。どんなところか想像もつかない。そこへハーデスの妃として嫁ぐ。不安はあるが、それ以上にハーデスと別れることは絶対にできない。  セティは己の運命の相手のことなど今まで考えてことも無かった。しかし、ハーデスから言われて、直ぐに納得できた。自分はハーデスを愛している。それは運命の相手だからだと思うのだ。  湖畔でハーデスを助けたのは、運命の相手だったから……そう思うのだ。  セティは皆が承知してくれることを願うのだった。どうか、反対されませんように……。 「父上母上、姉上兄上、驚かれるのは無理もございません。わたくし自身本当に驚きました。けれど、わたくしもハーデス様の運命の相手は自分だと思うのです。どうかお許し願いませんか」 「しかしなセティ、はっきり言ってこれは海の物とも山の物ともつかめぬ話。うかつに承諾は出来ぬと、わたしは思う」 「ウシルスの言う通りじゃ、余もそう思う」  兄の懸念に、父も賛同する。母や姉も考え込んでいる。  そうなのだ。隣国の王太子からの求婚ならこれほどの驚きはない。しかし、星に国があることさえ、しっかり把握されていないのだ。おとぎ話、伝説の世界なのだ。 「ハーデス様は記憶を失くしていた間も、誠実な方でした。それは常から誠実なお人柄だからだと思うのです。わたくしはハーデス様を信じます」  必死に言い募るセティ。どうにか皆に、ハーデスを信じ、自分が嫁ぐことを許して欲しい。 「セティ、ハーデス殿だけの問題ではないのだ。王太子の妃は、将来の王妃。国母となる身の上。それを全く見知らぬ他国から迎えられるのか? 我が国に置き換えてみれば分かるだろう」  父国王が、諭すように話す。 「わたくしを妃にすることは、反対されるでしょうか?」 「その懸念は大いにある。何しろ正室だからな。むしろ側室なら受け入れるやもしれぬ。しかし、側室ではこちらが承知しかねる」  父の言う通りかもしれない。それでも、セティはあきらめたくない。無論、セティも側室ではなく、正室としてハーデスの側にいたい。 「セティ、見知らぬ国へ一人嫁ぐのは辛いものだと思いますよ。母は、とてもそなたにそのような茨の道を歩ませたくない。この国で、わたくしたちの目の届くところで、大切にされるところへ嫁がせたいのじゃ」 「母上……」  母の思いも分かる。分かるから、セティは悲しくなってきた。ハーデスへの思いと、家族への思いの折り合いをつけることはできないのか……。  セティはこみ上げてくる涙を懸命に堪える。  今にも溢れそうなセティの涙に、当然皆気付いている。  泣かせても諦めさせるべきか……。四人はお互いに視線を交わす。その中で口を開いたのはアティス。  「今ここで最終的な結論を出す必要はないと思います。何しろ、星の国のことも全く分からないのですから。そして、ハーデス殿の本気度も分かりません。確かに、ここにいる間のあの方は誠実な方だとは思いますが、王太子としての立場もありましょうから」 「そなたの言うのももっともじゃな……はっきり断るよりも穏便に済ませることにもなるな……」 「まこと、本気なら正式な求婚の使者を立てるでしょうから、返事はそれからでも遅くはありません。その間、星の国のことも調べられます」  好奇心旺盛なアティスは星の国への興味もある。そもそも王子が落ちたとは! そんなことがあるのか! 「ウシルス、そなたはどう思う?」  ウシルス自身は、ここでセティにはきっぱりと諦めて欲しい。だが、今のセティの状況ではそれは難しいだろう。慕っていた従者が実は星の国の王子様と分かり、求婚されたのだ。夢心地でいるのだろうと、ウシルスは思った。  ハーデスに対しては極めて懐疑的だ。本気なのか……例え本気でも、簡単にはすまない。それは自分の立場を思っても分かる。見知らぬ国から王太子妃を迎えるなど、反対されるは必須。おそらく正式な求婚はされないだろうと思う。  そうこうするうちにセティも諦めるだろう。今、泣いて諦めるよりもセティにとっては良いだろう。 「はい父上、わたくしもそれが良いかと。本気なら、正式な求婚をと告げましょう。星の国については、外務担当の者に調べるよう命じます」  ウシルス自身、星の国へセティを嫁がせる考えは全くないが、星の国への興味はある。半ば伝説とされた国が存在したのだ。しかも文明も高そうなのだから、好奇心は刺激される。 「では、それで皆も異論はないな」  国王の念押しに皆頷いた。  セティも頷いた。今はそれで納得できた。無論、セティはハーデスが必ずや正式な求婚をしてくれると思っている。だから、納得できたのだ。

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