30 / 49
第30話 星の国からの招待
王宮の前庭に星の国の飛行船が降り立った。
今回は王宮警備の兵士たちにも、それが星の国の飛行船と直ぐに分かった。その報は、直ぐに王宮中枢部に伝えられた。
星の国の飛行船! 皆、騒然となった。
まさか本気だったのか!
近衛連隊長が、連隊と共に飛行船へと向かった。
ヘパイストスが、部下と共に降りてくる。ハーデスを迎えに来た時は平服だったが、今日は正装に威儀を正している。国王ハーデスの正式な使者だからだ。
ヘパイストスは出迎えた近衛連隊長に、訪問の目的を告げた。国王ハーデスの親書も携えていると伝える。
近衛連隊長は直ぐに、至政殿へ行き、国王と王太子に報告する。
「国王ハーデスの親書とな。つまり、ハーデス殿は即位されたのだな……だから半年音沙汰なかったのか……。承知した。お通しせよ」
急報を聞いて王妃、アティス、そしてセティもやって来る。皆で、使者を迎えることになった。
ヘパイストスを先頭に使者が、至政殿に入って来る。半年前は単に王太子側近だったヘパイストスだが、今は歴とした国王の補佐官だ。
ヘパイストスは、先ずハーデス帰国直後前国王が崩御したためのあれやこれやで訪問が遅れた詫びを述べる。その後、セティを是非に星の国へ招待したいとの述べ、ハーデスからの親書を渡す。
親書は、国王あてとセティへあてたもの二通ある。国王も、セティもその場で読み、国王はそれをウシルスにも読ませる。
求婚より先に、国への招待、そこに何か星の国の事情があるように思われる。受けて良いものか……国王は協議をしてから返事をしたいと思う。
「返事は後ほどさせてもらう。その間、使者殿にはゆるりと過ごされよ」
「ウシルスそなたはどう思うか?」
ヘパイストスたち使者が立ち去ると、早速国王は下問する。
「あまりにも唐突ですね。大事なセティを行かせるわけにはいきません」
「ですが、兄上!」
皆がセティを見る。
セティはハーデス親筆の親書に感動していた。ハーデスは決して自分を忘れていなかった。是非にも星の国へ来て欲しいと書いてあった。行きたい、ハーデスの国へ。そして会いたい。もう半年も会っていない。ハーデスと出会ってから、こんなにも離れていたことはない。会いたい思いは日々募っている。
「わ、わたくしは行きたいと思います。ハーデス様が国王として、正式に招待下さったのです。是非ともお受けしたいと思うのです」
一国の王が、親筆で認めている招待状。その意味は重い。それは多分どの国でも変わらないだろう。
「一刀両断に断るわけにもいかんだろうな」
「しかし、セティ一人で、余りにも危険です」
それも当然のこと。友好関係が全くなく、国の情報も皆無。そんなところへセティをやれるのか、答えは否だ。
「それではわたくしが同行しましょう。そして、気働きのできる者を幾人か同行させればよいのでは」
姉上、また余計なことを……ウシルスは苦い顔をするが、セティの顔はぱーっと明るくなる。
「姉上! 一緒に行ってくださるのですか!」
「しかし、正嫡の王子と王女二人で見知らぬ国へ行き、何かあれば」
「太子の懸念も、もっともだな」
「正嫡の王子と王女だからこそ、見聞を広めることは大事なことと思うのです。恐れているばかりでは何も進みません」
自分の身の上なら、恐れなどない。セティだから心配なウシルスと、アティスの冒険心とのぶつかり合い。アティスは行ってみたいのだ。星の国へ。セティにことかけた純粋な好奇心でもある。
「ならば、わたくしが同行しましょう」
「それはならん!」
ウシルスの言を、国王は即座に却下する。却下されてみれば、ウシルスも反論できない。それこそ、王太子の立場がそれは許されないと分かる。しかし、心配だ。姉で大丈夫だろうか……。
「そなた、わたくしだけの同行で心配なら、メニ候も同行させたらいいのではないか? 彼が同行するならわたくしも心強い」
アティスの言に、セティは大きく頷きながらウシルスを見つめる。何を言わんとしているのかは分かる。行きたいのだろう。全く、兄の心、弟知らずだ……。
ウシルスは大いに嘆息しながら、メニ候か……あれが同行するならと、考える。
「わかりました。メニ候へは、わたくしから話します。返事はその後で」
「わたくしが同行するのでございますか」
「そうだ。行かせたくはないが、行きたいセティと姉上が収まらぬ。全く困ったものだ。ならば、そなたが同行してくれればと思った」
ああ、またあのセティ様の潤んだ眼で見つめられたのか……全く甘いことでと思うが、自身も星の国に興味があるのも事実。
この半年、手を尽くして調べたが、はっきりしたことは未だ分からないのだ。行って見てくるしか星の国を知ることはできないだろう。
「よろしゅうございます。わたくしが同行いたしましょう。この眼でつぶさに見てまいります。かの国を」
「ああ、よろしく頼む」
星の国からのセティへの招待は、姉のアティスが保護者の立場で付き添い、王太子補佐官のメニ候が同行すると返事をする。
受けたヘパイストは、断られることも想定していたので安堵する。第一関門を突破した思いだ。直ぐに気を通してハーデスに伝える。喜ぶハーデスの思いが伝わる。これで本格的に出迎えの準備をするだろう。
セティは浮足立っていた。
国王になったハーデスからの正式な招待。星の国へ来て、星の国を知って欲しいとあった。そして、セティの素晴らしさを我が国にも知って欲しいと。それはセティにとって最高の賛辞。
ハーデスは約束を覚えていたのだ。この半年、不安や、辛いこともあったが、良かった。嬉しい……心から嬉しい。そして、早く行きたい。ハーデスの住む星の国へ……。
ウシルスの指示で、早急に出発の準備が進む。行かせると決まったからには、セティには最高の装いをさせねばならない。
そして、メニ候に同行させる者の選定も重要だ。メニ候の手足となって星の国の調査をするのだから、優秀でなければ務まらない。ウシルスとメニ候とで、部下の中から特に優秀な者を厳選して選んだ。
セティには、乳母のヘケトとアニスの母子も同行する。二人はセティから離れることは考えられない。どこへ行くのも同行するのだ。それが未知の国でもだ。
慌ただしく準備が進み、いよいよ星に国へ行く当日になった。
「セティ、よいかどこへ行こうともそなたはケトメ王国の正嫡の王子。その立場を忘れぬように。堂々と振舞うのだ」
威厳のある父王の言葉に、セティはしっかりと頷く。
「父上のお言葉を胸に刻み、しっかりと行ってまいります」
「セティや、道中くれぐれも気を付けるのですよ。何かあればすぐに侍医かヘケトに言うのですよ」
母は心配のため涙目だ。今になって行かせたくないと思っているのだ。
「どうか母上……ご心配なさらずに。必ずや元気で帰ってまいります」
「姉上、くれぐれもセティをよろしくお願いします。セティ、そなたの帰りを待っているぞ」
「心配しなくてもわたくしやメニ候が付いておりますから大丈夫ですよ」
「兄上、お見送りありがとうございます」
見送りの両親と兄、それぞれと言葉を交わした後、セティはアティスと並んで飛行船へと入っていく。
続いてメニ候はじめ随行の者たちが入り、最後にヘパイストスが大きく礼をしてから入り、扉が閉まる。
いよいよケトメ王国を離れ、星の国へと向うのだ。
国王王妃、そしてウシルスの三人は飛行船が見えなくなるまで見送った。
ともだちにシェアしよう!

