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第10話

華弥と話しているときは感じなかったのに、急に重くなった足を必死に動かして家に帰った。 やっとついた誰もいない部屋はとても落ち着く。 服を着替え、身支度をするとちょうど家を出る時間だった。 いつも通り社長の部屋へと向かう。 「社長、朝です。起きてください。」 伸ばされる腕をさっとかわして、着替えの用意をする。 「今日は俺の負けか。迷惑そうな顔も綺麗だ」 今、キスなんてされたらきっと泣いてしまう。 そっと呆れた顔で隠した。 「社長!明日はお見合いですよ。こんな事をしていてどうするのですか。」 「どうせ、お見合いをしても断る。」 「決めつけないでください。もしかしたら、あなたが惚れてご結婚されるかもしれませんよ。」 「その時はその時だ。本当に愛せるのなら、浮気ととらえられるような行為は辞めるし、そこまで愛していないのであれば、今と同じ生活を続ける。」 本当に愛せる人を作ってほしい…好きな人の幸せを願いたい。 「とりあえず、お見合いはしっかりしてください。会長の顔に泥を塗るわけにはいきません」 社長ははぁとため息をついて、でこぴんをしてきた。 久しぶりに触れた。 そんな事で喜ぶ、なんて。 「おやめください。早く準備をすませますよ。」 本当に愛せる人が俺だったらいいのに。 ばかだねなんて声が聞こえた気がした。

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