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第42話
「好きだ……」
後ろから包み込まれた状態で、耳元でささやかれる。
いつもの戯れ言だと分かっているのに、跳ねてしまう心臓は何なのか。
「変な事言わないでください。それよりも、離れてほしいです。」
「変な事じゃない。お前を好きになるのは悪いことなのか……?」
頭の中をかき混ぜられているかのように、視界がグラグラして来る。
「悪いことというか…、そもそも私をからかっているだけでしょう。」
「そう決め付けるな。こんなにも愛しているのに」
芝居に出てくるような言葉なのに、本気に聞こえるのが耐えられない。
「せっかくお部屋まで取っていただいたのに申し訳ないのですが、急な用事を思い出したので、今夜は帰ります。おやすみなさい。」
無理やり手を解いて、部屋から駆け出した。
まだそれほど遅い時間ではなかったから、電車は走っていた。
急いで乗り込み、ほっと息をついた。
疲れたな。
社長に好きだと言われるとかいつもの事なのに、今日は変に緊張してしまった。
変に思われただろうか。
考えるのもめんどくさくなって、目を閉じた。
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