42 / 123

第42話

「好きだ……」 後ろから包み込まれた状態で、耳元でささやかれる。 いつもの戯れ言だと分かっているのに、跳ねてしまう心臓は何なのか。 「変な事言わないでください。それよりも、離れてほしいです。」 「変な事じゃない。お前を好きになるのは悪いことなのか……?」 頭の中をかき混ぜられているかのように、視界がグラグラして来る。 「悪いことというか…、そもそも私をからかっているだけでしょう。」 「そう決め付けるな。こんなにも愛しているのに」 芝居に出てくるような言葉なのに、本気に聞こえるのが耐えられない。 「せっかくお部屋まで取っていただいたのに申し訳ないのですが、急な用事を思い出したので、今夜は帰ります。おやすみなさい。」 無理やり手を解いて、部屋から駆け出した。 まだそれほど遅い時間ではなかったから、電車は走っていた。 急いで乗り込み、ほっと息をついた。 疲れたな。 社長に好きだと言われるとかいつもの事なのに、今日は変に緊張してしまった。 変に思われただろうか。 考えるのもめんどくさくなって、目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!